コミックヒーローズ　ダークナイト・カミング｜リアクション

コミックヒーローズ　ダークナイト・カミング

■スパイダーシェリフ　ほーむかみんぐ？
　排気ガスと高層ビルの町を、ピザ配達のバイクで走る男がいる。
　鎌八まもる。またの名を――。
「おっと、また渋滞か。これじゃあ時間に遅れちゃうよね。ピザ代自腹はキツイんだよなあ。もう今日だけで三件目だし……」
　ふと空を見上げる。
　高い高いビルが建ち並び、空はもっと高いところにあった。
　それに引き替え地面にはびこる車の列はなんだ。遠くへ早くたどり着く文明の利器がまるで巨大な文鎮じゃあないか。

　と、いうことで。

「ひゃっほーう！」
　ビルの間を飛ぶ真っ赤なフォルム。
　ダメージジーンズに牛革のジャケット。テンガロンハットに保安官バッジをつけた彼こそは、ネコアイランドシティのニューヒーロー『スパイダーシェリフ』だ。
　その名の通り蜘蛛の性質を持ち合わせる彼は、手から自在に蜘蛛のような粘着糸を発射できる。それを左右の建物へ交互に飛ばし、まるで空中ブランコを連続するようにビルの谷間を飛んでいくのだ。
　これでピザの配達も楽ちんだねって思ったその矢先。
　つんざくような美女の悲鳴が聞こえたのだ！
　……いや、本当は路上のクラクションや町の雑踏に紛れて聞こえないが、スパイダーシェリフのスーツに装備された拡張聴覚がそれをキャッチした。
　となれば、ピザ配ってる場合じゃねえ！
「美女のなんたらには、なんちゃらかんちゃらってね！」
　なんかうまい名言を出そうと思ったけどなんにも思いつかなかった彼は、通りがかりのオフィスの人たちにウィンクしてから路地裏へと飛び込んでいった。
　するとどうだろう。ナイフを持った強制ノースリーブの筋肉三人と、膝をうっすら斬られた美女一人。おきまり過ぎる構図である。
「おっとそこまでだ」
　上から上下逆さにびろーんと下りてきたスパイダーシェリフは、威嚇しようとする男たちに糸を巻き付けたちまち壁に貼り付けていった。
「こんなところかな。やあお嬢さん、オレが来たからには……」
　くるーりと美女に身体ごと向き直った……ときには、既に美女はいなかった。遠くへダッシュで逃げていた。
　あと糸にひっかけて置いといたピザがその辺のおっさんに喰われていた。
「…………ま、いっか！」
　ぴろーんと再びビルの空に飛び上がるスパイダーシェリフ。
　今日も元気に町の平和を守るのだ。

　――彼が町の異変を察知したのは、その数分後のことである。

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