星の降る夜＜夜の散歩＞｜リアクション

星の降る夜＜夜の散歩＞

　夜も更けて、丁度日付も変わった空の色は一際深みを増して、星の瞬きも一層きらびやかになった旧市街。

　御剣刀はいつも通り、片腕に乗せているビスクドールのルヴィアと共に、街の見回りを兼ねての散歩をしていた。

「ニュースで生憎の曇り……って聞いてたんだけどな、良い夜空だ」
　見上げた星空は、まるで夜のライトアップを思わせるように、はっきりと眩しく輝いている。
　しかし空が透き通っている分だけ、気温は今の季節にしては若干冷えていた。
「……風が少し肌寒いけど、ルヴィアは平気か？」
　腕に乗せたルヴィアにそっと問い掛ける。もう少し暖かいかと思っていたが、そうでないならば薄手のマフラーくらいは持ってきても良かったかも知れない……と思案した、瞬間。

　こつん、と。何かが降って頭に当たった。

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　少しずつ、着実に。旧市街の道が虹色に染まっていく。
　そんな真っ只中を、謎の兎に似た生き物が、堂々と道を器用に二本足で動き回る光景──志波武道は、それを他に人がいれば絶対に見せないであろう、口の中に羽虫が飛び込んでしまったかのような顔で見つめていた。

　最初は、武道も屋内から、空を見上げていただけだった。
　しかし、流れ星が落ちる都度。降ってくる虹色の物体が、暗い地面を光に染めていくのを見て、流石に気になり外に出た矢先。

　武道は、今視界を二本足で歩く『うさぎ』というものに、物凄く見覚えがあった。
　忘れたくても忘れられない。恐らく今目に入っているのは『対象の負に当たる影を出して、本人と互いに殺し合わせた』挙げ句に、その時湧き上がった感情をエッセンスにニンジンを食べるという、極めて良く似た──否、酷似を通り越してほぼ同種族であろう『うさぎ』。

　今見ているものは、サイズ的にあの時のうさぎではなさそうだが、これは、明らかにフツウではない。
　その時点で、武道に放っておくという選択肢は消え去ったが、
　……しかし、あの時のことを思えば。武道にとって今回積極的に拘わるべきか、それとも様子を見るべきかを本気で思案せざるを得ない状態であった。

「……どうしたものか……」
　事実、深刻極まりない。
　しかし、その思案に暮れる武道を見つけて。空から何かが降る状況に理解が追いつかない刀が声を掛けた。
「志波先輩」
「……！　あっ、刀くん。こんばんはっ☆　今日はまさに星日和だねっ♪」
　武道はあまり人に見せたいとは思わない思考を即座に飲み込んで、先程の表情からは遠く明るい笑顔で刀に挨拶をした。
「こんばんは。
　でも、星日和というよりは……この状況でテオは──」

「良かった、他にも人がいました……！！
　テオなら、さっき猫鳴館の塀の上で、ずっと眠っていて……」
　声を聞いて、そちらに駆け寄ってきた綾辻綾花がテオの様子を二人に告げる。
「こんなに大事になるんでしたら、しっかり起こしてあげれば良かったです……
　ひとまずは、うさぎさんたちから事情を伺いましょうか。何か分かるかも知れません」

　綾花の発案に、刀と武道は頷いた。
　──正確には、頷かずにはいられなかった。

　そう既に、ちまちまとした小うさぎたちは、興味に溢れたその瞳で、三人を完全に包囲していたのである──

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