僕を遊びに連れてって！｜リアクション

僕を遊びに連れてって！

　　　６

　翌日は、椿美咲紀と八神修の提案によって九夜山へハイキングに行くことになった。メンバーは巧、光、美咲紀、修に武道と莉鳥だ。雅樹はきっぱりはっきりと断ってきた。理由は不明である。
　大家の城之内小百合（じょうのうち・さゆり）にも声をかけたが、若い人たちだけで行ってらっしゃいと送り出された。代わりに巧と光のために、おにぎりを握ってくれた。
「まずはロープウェイですよ！」
　揺れる上にがたごとと音のするロープウェイに巧はおっかなびっくりだが、光はきゃーきゃーと喜んでいる。
「たっくん！　あっち！　あっち！」
「あー、あっち？　あっちね……」
「東門お前、高所恐怖症か？」
「じゃないけど、怖いでしょ！　こんな揺れるの！　落ちたらどうするの！」
　修は苦笑し、光の傍にしゃがみ込んだ。美咲紀が用意した帽子にぽんと手を乗せ、眼下の風景を指差す。
「お前のうちは、どこだろうな？」
「あっち？」
「かもな。家がたくさんだな。人もたくさん住んでる」
「いっぱいだねえ」
「ああ、いっぱいだ。一人一人、みんな生きている」
「う？」
　光はぱちくりと両目を瞬かせた。難しすぎたな、と修は笑った。
「いいんだ。今は分からなくて。でも覚えておいてくれ。この風景の人々は、みんな俺や巧や光と同じだってことを。懸命に生きてるってことを」
　やはり分からないようで光はきょとんとしていたが、今はこれでいいと修は思った。
　展望台前に着くと、光は真っ先に下りて駈け出した。
「光くん！　走ると転びますよ！」
　揺れるリュックを美咲紀が慌てて追う。
「……大丈夫？」
　護衛としてついてきた莉鳥が、真っ青な顔でへたり込んだ巧に声をかけた。高所恐怖症というより、乗り物酔いらしい。
「だいじょぶじゃない……ここにいていい？」
「いや、置いてくわけにはいかないよ。抱っこしよっか？」
　武道がにやにや笑いながら、お姫様抱っこの格好をした。
「いやいやいや！　歩きます！」
　巧は慌てて立ち上がり、駈け出した。莉鳥もやれやれというように、後を追う。
「……柘榴のこと、聞いてる？」
　修と二人きりになると、武道はぼそりと言った。
「この前、会った」
「そか。昨日、ロベルトくんが見つけたらしいんだけどさあ」
　ラーメンを食べ終わった後、柘榴はロベルトに、琥珀の場所を知ってるなら教えろ、と言った。当然、ロベルトも遥斗も誤魔化したし、柘榴もそうかと答えたが、本当に納得したかは疑問だ。
　美味いもん食わせてもらったから何もしないけど、と柘榴は言った。
『俺も早く帰りたいんだ。大将探しの邪魔をするなら、容赦はしねえぜ？』
　遥斗はそこで息を飲んだ。ラーメン屋には油が多く置いてある。ここで柘榴が能力を使えば、大惨事だ。
　二人はやむなく、柘榴を黙って見送った。
「ただロベルトくんの印象だと、琥珀を見つけ出すために何をするか分からない感じだったらしい」
「東門に話すべきか否か」
「俺は反対。というか、俺からは話すつもりはない。雅樹くんは言うべきだって言ってたけどねー」
「俺は――」
　修は口を噤んだ。どうすべきか、答えは決まっていない。代わりに、
「何も起きなきゃいいけどな……」
　それは予感だったのか。
　修は表情を曇らせて、青空と緑の木々を眺めた。

このページにイラストを設定する