三月中旬。
期末試験も終わり、寝子島高校の生徒たちは卒業式までのんびりと過ごしている時期です。
東門 巧も例外ではなく、――いえ、のんびりというより、
「巧くん、そんなにダラダラしていたら、いけませんよ」
大家である
城之内 小百合(じょうのうち・さゆり)の声に、コタツでうたた寝していた巧は飛び起きました。
「え、あ、すみ、すみません!!」
寝惚け眼で振り返ると、その胸にどしんと落ちてくるものがありました。
「たっくん! あそぼ!」
「ぐえっ!」
二十三キロ――平均よりはやや重いかもしれません――が一気に伸し掛かり、巧は呻き声を上げました。
この少年、
光(ひかる)は、感情と共に周囲の物を破壊する能力の持ち主です。寝子島においては左程不思議ではありませんが、どうやら彼はもれいびではないようなのです。
どこか別の世界から来た人間で、しかも今は何らかの理由で幼くなっているだけ――らしいのです。
らしいというのは、それを証言する者が一人しかおらず、それも自称「異世界の人間」だからです。
リリーと名乗る彼女は、光を
琥珀(こはく)と呼び、危険人物として倒そうとしていました。
しかし今は、周囲の説得に応じ、様子を見ています。
何と言っても、光はまだ六歳程度の知能と身体能力しか持ちません。しかし彼は短期間に成長し、能力も確実に強くなっています。この先どうなるかは誰にも分かりません。
現につい先頃、光は癇癪を起こし、人を傷つけてしまっています。
散々、周囲から叱られ、諭された光も子供なりに反省したのか、最近は外へ出たがるようなこともなく家の中で遊んでいます。しかし、そうなると相手をするのは巧と小百合しかおらず、二人ともクタクタです。
さすがに小百合は家事に一切手を抜かず、くたびれた様子は見せませんが、巧はご覧の通り。元々、体力には自信がない上、足りない出席日数をカバーするための補習で既に限界を突破しています。
「どこかへ遊びに出かけたら、どうかしら?」
「どこかって……どこへです?」
寝子島に越して以来、ほとんど引き籠っていた巧は、学校とこの旧市街の下宿以外、どこにも行ったことがありません。
「たくさんありますよ。そうだわ、お友達を誘ったらどうかしら?」
「そんな友達なんて……」
「いるでしょう?」
確かにここ最近、光のお陰で友人――らしきもの、と巧は思っています――が出来ましたが、果たして遊びに行くような仲かどうか、巧には自信がありませんでした。
すん、とその少年は鼻を鳴らしました。
「うーん、絶対この辺にいるはずなんだけどなあ……」
真っ赤な髪をがしゃがしゃと掻き回し、
柘榴(ざくろ)は忌々しげに呟きました。
「どうもここだと、力がイマイチ発揮できないみたいなんだよな……。早いとこ大将見つけて、帰りたいなー」
広げた掌にぽっと炎の塊が生まれ、消えます。
「
アイリスだかリリーとかって邪魔なのもいるし、変な連中もいるし……。いっそ、なんかやってみるか?」
その思い付きを、柘榴は気に入ったようでした。にやりと笑い、街を見渡します。
「さーて、どこでやってやるかな」
楽しげな声を残し、柘榴は姿を消しました。
お待たせしました。「迷子の少年とボヤ騒ぎ」の続きでございます。続き物ですが、前回に参加していなくても全く問題ないため、お気軽にご参加ください。
今回の話は、前回からやや時が経ち、三月中旬。皆さん、のんびりしている頃だと思います。巧ものんびりというか、ぐったりしています。
よく考えたら巧は寝子島のことを知りません。この巧と光を遊びに連れ出そう、というミッションです。
しかしながら、このミッションには危険が伴います。光を琥珀として付け狙うリリー、そしてどこかにいるであろう柘榴。
果たして外出して大丈夫かどうか。
頑張って、あちこちに連れて行ってあげてください。
巧もリリーも、柘榴のことをまだ知りません(リリーは何か察しているようです)。二人に柘榴のことを伝えるかどうかは、お任せします。
リリーの居場所を知るのは、二人。
青木 学さんと新田 亮さんだけです。ただし、リリーが外へ出た場合はその限りではありません。ばったり出会うことも可能です。
柘榴もまた、「光」のことを知りません。リリーもしくはアイリスという敵がいることは知っています。
柘榴の居場所は不明です。彼がどこにいるか、何をしようとしているか、推理するか当てずっぽうで向かってみてください。
このアクションの難易度は高めですが、時間が被らない限り、複数の場所に行くことが可能です。
それでは皆様のご参加をお待ちしております。
・東門 巧
元引き籠りで不登校の少年。一度は学校に通い始めたが、赤ん坊の光を預かることで、再び不登校に。現在はどうにか登校しているものの、やや休みがち。どうにか進級できました。
・光(ひかる)
巧のところに突然現れた赤ん坊。泣き出すと周囲の物を壊す能力を持つ。猛スピードで成長中。現在は六歳ほど。
・城之内 小百合(じょうのうち・さゆり)
巧の下宿のおばさん。家事が得意で面倒見たがり。派手なフリフリのワンピースをいつも着ている。巧曰く「古風」。
現在は光の世話で、念願のイングリッシュガーデン作りが止まっている。
・リリー
背の高い男性を見かけては声をかけていた。その正体は、別の国の戦士。恐ろしい力を持つ琥珀(こはく)という男を探していた。
リリー曰く、それが光であると言うのだが……。
・柘榴(ざくろ)
赤毛の少年。身長は165センチほど。もれいびではないが、炎を操る。琥珀を大将と呼び、探している。