僕を遊びに連れてって！｜リアクション

僕を遊びに連れてって！

　　　５

　遥斗もロベルトも息を飲み、微かに身構えた。が、
「よっ。お前ら見かけたんで降りてきたわ」
という、やけに明るい挨拶に、すっと肩の力が抜けた。
　柘榴は遥斗の顔をじーっと見つめ、
「お前この前、俺を襲ってきた奴だなあ？」
「襲ったというか、あれは」
　遥斗は慌てた。ここで警戒心を抱かれては意味がない。
　柘榴は首を巡らせ、ロベルトの顔を覗き込んだ。
「まあ、いいや。こっちのお前がいるってことは、俺に用があるんだろ？」
　無邪気なまでの笑顔で言われ、ロベルトは自分の心拍数が上がったのを自覚した。顔に出てないよな、と頬を指先で撫で、
「大将は見つかった？」
と尋ねた。
　柘榴は腕を組み、それがなあ、と唸る。
「こっちの方だと思うんだけど、なんか紛れてるんだか、あっちのような気もするし……」
　それで指差したのが寝子ヶ浜海岸だったので、ロベルトも遥斗も焦る。光たちのことは、知られてはならない。
「き、きっと根を詰め過ぎなんだよ。休憩しないかい？」
「そうだなあ……」
　迷い始めたところで間髪入れず、
「腹減ってないか？」
という遥斗の誘いに、柘榴はあっさり乗った。

「何だこれ？　うめーな！」
　寝子島高校生徒御用達――なる称号はいくつもの店にあるものだが――のとあるラーメン屋。安くてそこそこ美味くてボリュームがあることで、人気の店だ。
　遥斗とロベルトは、柘榴をそこに連れて行った。箸が使えない彼のために、店主がフォークを貸してくれた。親切だ。
「君の住んでいたところは、どんなところだったの？」
　柘榴がラーメンに夢中になり、気を許したところでロベルトは尋ねた。
「住んでた、ってか、俺らがいたところは、花ばっかのとこだった。気に入んないから、みんなして住みやすくしてたんだけどな」
「住みやすくって、どういう風に？」
「壊す」
　はっきりきっぱりと、たった一言。
「ま、俺の場合は燃やすんだけどな。花を失くして、俺らの住みやすい世界にしてるとこだった」
「終わってない？」
「そ。ヴァルキリーが邪魔しやがるからな」
　それがリリー、そしてアイリスたちのことだろう。世界を破壊しようとする琥珀、柘榴らとヴァルキリーが戦っているという構図らしい。
「大将って、どうやってこっちに来たの？」
「大将がアイリスをぶっ殺したときに、周りが変な色になってな、二人と、後、リリーってのが消えたんだ。翡翠（ひすい）が言うには、ヴァルキリーが死ぬときに変なエネルギーが出て、どっかに飛ばされるんじゃないかってことだった。俺にはよく分からねえんだけど」
「君はどうやってここに来たの？」
　柘榴自身の話と、光、リリーが現れた時期を考えると、同時に飛ばされたわけではなさそうだ。無論、行方の分からぬアイリスのこともあるから、一概には言えないが。
「翡翠がどうにか方法を考えてくれた。ほんとはあいつが自分で来たがってたんだけどな、俺の方がいいってんで、俺が来たんだ。こんな美味いもん食えるなら、来た甲斐があるってもんだな」
　柘榴はフォークを咥えたまま、にっと笑った。
「それじゃ、やっぱり目的は大将探し？　それ以外にはない？」
「ない」
「あちこち、火をつけてない？」
「あー、そりゃ腹減ったからだ。どうもこの世界は、腹減るのが早いんだよな……」
「それじゃあ」
「まだあるのかよ？」
「最後に一つ。その――大将が今、まともに動けるような状態になかったら、どうするつもりなんだい？」
　柘榴は器を両手で持って、スープを呷った。ごきゅ、ごきゅ、ごきゅと大きな音を立てて全て飲み干した後、器をダン！　と置く。
「やっぱりお前、なんか知ってんのか？」
「いや――もしもの話だよ」
「もしもねえ……まあ、もしもお前が言うように大将が動けなかったとしたら」
「したら？」
「担いででも連れて行く」
　当然、とばかりに柘榴は言い放った。

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