うみねこで春の味覚を｜リアクション

うみねこで春の味覚を

●対照的な鍋タイム

「お、きたきた。旬の食材ぎっしりで食べ応えがありそうだぜ！」
　水守流の視線は「これだけは渡せねぇな！」と言わんばかりにズワイガニに釘づけ。
「八神君……メバルもあるね……」
「持ってきた甲斐があったよ」
　恵御納夏朝の言葉に、八神修は良い魚が釣れたうえ、具材に加えてもらえたことを改めて喜んだ。
「この中に、君が用意した具材があるの？」
　具材をじっくり見て、どれも美味しそうと見ていた本居陽毬が修に聞いた。
「この白身魚、メバルは俺が釣ったものなんだ。ケンゾウさんにお願いしてメニューに加えてもらったんだ」
「じゃあ、他のメニューにも八神が持ってきた魚があるんだな？」
　お造りと味噌汁にも使われているよ……と夏朝が教えてくれた。ちなみに、鍋の出汁にも修が差し入れた魚が使われている。
　他も楽しみだが、まずは目の前にある海鮮鍋を楽しもう。

「恵御納、注文だけど海鮮鍋で良かったのか？」
「うん……」
　海鮮鍋を食べたいと思っていたが、二人前からと内心葛藤していたのを修が気づき、一緒に食べることに。
　具が煮えるまで、２人が会う前にしていたことを話していた。
「釣りをしていたら、猫が来て魚を狙っていたんだ。邪魔されるのと困るから、魚をあげた」
　厨房に入る前も、野良猫が入ろうとしたので「猫は御免な。お土産をあげるからお帰り」と魚をあげ、帰ってもらった。
「それを見た他の猫が、おこぼれを求めて寄ってきてさぁ……大変だったよ」
「八神君が釣った魚……食べたかったんだね……。僕は……可愛い猫さんをたくさん見れたことと……魚戸さん達が元気そうなのが嬉しい……」
　魚戸夫妻が元気でいるから『うみねこ』は繁盛している。
　それが猫にもわかるから店の周辺をうろついていたのかも、と微笑む夏朝。
　いろいろ話しているうちに、具材が煮えてきた。
「うわぁ、美味しそう……！」
　仲良く食べるため、夏朝は取り過ぎないよう気を付けつつセリ、ホタテガイ、ズワイガニを少しずつ器に入れ味わう。
「はふ、はふ……うん、美味しい！」
　具材も少しだけ器に入れた出汁も美味しい。

「具材が煮えてきたよ。食べよう」
　鍋の煮え具合を観察していた陽毬が食べ頃を告げると、流は「待ってました！」と箸を伸ばす。
　まず手始めに、と流がホタテを取ろうとしたところ、陽毬がすかさず箸でブロックして手元に拾い上げた。
「俺が食おうとしてたのに！」
「水守君……鍋は戦争よ……！　たくさん食べるためには一時の油断も許されないんだよ……！」
「くっ……ホタテは取られたがズワイカニは絶対に渡さん！」
「私だってズワイガニ食べたいのよ！」
　こちらの２人は、和気藹々というより、仁義なき鍋バトルと化しそうな予感がする。
　お目当ての具材を取っては喜んで食べ、取られては口惜しがるな展開が続く。
　それは食べ終わるまで続くかと思われたが……
「これ、メバルだっけ？　美味いじゃないか」
「セリもなかなかいけるわ……」
　他の具材の美味しさがわかったことで険悪ムードが緩和されたのか、２人は取り合いをやめた。
「本居、カニやるよ」
「ありがとう。じゃあ、私はホタテをあげるわ」
　春の旬が詰め込まれた海鮮鍋は、流と陽毬の心を温めてくれたようだった。