うみねこで春の味覚を｜リアクション

うみねこで春の味覚を

●厨房は大忙し
　　
「ぐぬぬぬ……やはり混んでいるのだ」
　もう少し早く来れば良かった、と後悔しながら李小麗は入口から店内の様子を見ていた。
　そういうことであればお手伝いするのだ、と裏口に向かう小麗。
　あともう少しで裏口、というところで、手伝いをしに来た天満七星に会った。
「七星もお手伝いに来たのだ？」
「ええ。ハルコ様がお忙しそうですので」
　うみねこ新装開店の手伝いをした時に一緒だった仲間がいるのは心強い。

　２人は揃って裏口に入って挨拶を。
「お邪魔しますのだ。おじちゃん、おばちゃん、こんにちはなのだ！」
「定食、美味しかったです。私もお手伝いに参りました」
　申し出に驚いた魚戸ケンゾウだったが、人手が足りないほどの忙しさだったのでありがたいと思った。
　手伝いの経験がある彼女達なら、説明をしなくても大丈夫だろう。
「混み混みで大変そうだから、しゃおりーもお手伝いするのだ。お手伝いはこの間やった接客を頑張るのだ」
「私も接客のお手伝いをしますわ」
　いつもは接客担当の魚戸ハルコだが、調理もできるので接客は小麗と七星に任せることに。
「あ、綾花ちゃん、急で悪いんだけど調理手伝っとくれ」
　下げた食器類を厨房に持ってきた綾辻綾花に、良いところにきたと頼むハルコ。
「わかりました。忙しくなってきたようですし」
　食器を置くと、腕まくりして手を洗って調理に備える。
「綾辻様、ご一緒に頑張りましょう」
「しゃおりーも頑張るのだ！」
　あの時と一緒ですね、と微笑む綾花は「はい」と答える。　
「あ、おじちゃん、空き時間になったらで良いので、しゃおりーもうみねこ春定食が食べたいのだ」
「休憩の時に作ってやるよ。それまで頑張ってくれ。頼んだぜ」
　やったのだ！　と小麗はやる気マンマン。

「ケンゾウさん、海鮮鍋の具材、用意できました」
　新田亮が具材を載せた大皿を見せ、ケンゾウにチェックしてもらう。
「良い出来だ。手伝いに来た嬢ちゃん達、仕事だ。こいつをイルカテーブルに運んでくれ」
　はい、と鍋と具材を持っていく小麗と七星。なお、鍋を載せるコンロは前もって設置済み。
　鍋の準備が終わっても、調理担当には手を休める暇はない。
　ケンゾウはお造り用の魚を捌いたり、煮物や揚げ物を作ったり。
　捌き以外の作業は、新メニューを考案、作成した綾花が手伝う。
　下拵えはハルコと亮が分担。できたものをケンゾウに手渡す。
「亮くん、下拵えが手早くなったね。助かるよ」
「ありがとうございます、ハルコさん」
　ケンゾウだけでなく、ハルコにも認められ亮は嬉しかった。

　店内では、注文したメニューを首を長くして待っている客が。
「海鮮鍋、お待たせしたのだ！」
「今、コンロに火をお付けします」
　海鮮鍋は、客が自分で作ることになっている。
　小麗は具材の皿を置き終えると、次の注文を聞きに。
「こんにちは、恵御納様、八神様。おふたりも限定メニューを食べにいらしたのですね」
　うん……と言う恵御納夏朝と、魚の差し入れに来たついでに腹ごしらえをしにきたと言う八神修。
「お鍋は、さっぱりした味で美味しいです。じっくり煮えるまで、ゆっくり待つのが美味しいコツなんです」
「そうか。じゃあ、そうしよう」
「教えてくれて、ありがとう……」
　楽しくコミュニケーションを取ることは、接客をするうえで大事なこと。
　雰囲気のいいお店にはまた来たいと思うもの。忙しくても、七星はその心がけを忘れない。
「では、ごゆっくりどうぞ」