うみねこで春の味覚を｜リアクション

うみねこで春の味覚を

●うみねこに魚の差し入れを

　限定メニュー開始の日、八神修は寝子島漁港付近の堤防に釣りに行った帰りだった。
「たしか『うみねこ』はこの近くだったな」
　そこで腹ごしらえしよう、と用具入れやクーラーボックスを持って行くことに。

　その途中、散歩を切り上げて『うみねこ』に向かう恵御納夏朝に会った。
「八神君も『うみねこ』に行くの……？」
「ああ。釣りをしていたら腹が減ったきたからな。一緒に行こう」
「うん、行こう……」
　クーラーボックスに何が入っているのかな……と気になった夏朝は、中を見せてほしいと頼んだ。
　竿を３本並べ、魚がかかるまでの時間潰しにドイツ語の自学書を読みながら釣ったのは春が旬の魚だった。
　魚の種類は、竿の数と同じ３種類。偶然だろうか。
「この黒いのはタイかな……？」
「クロダイだ。これが釣れるとは思わなかったよ」
　これを含めて３種類だけだったが、釣果のほうは上々だった。
「これ、できたらケンゾウさんに調理してもらおうと思っているんだ」
　休日で忙しいのはわかっているが、できれば、自分が釣った魚を調理してもらいたかった。
「『うみねこ』で期間限定メニューを今日から出すんだって……お祝いに持っていけば喜ぶと思う……」
　そういえば、ねこったーでそんな話題があったな、とふと思い出した修は、良い手土産ができたと思った。
　調理してもらえるかを聞くには、開店時の忙しい時間は避けたほうが良さそうだと早めに行くことに。

　歩きながら、修は夏朝の話を聞いていた。
「猫を見る散歩をしていたのか。猫達の様子はどうだった？　集会していたり、かな」
「『うみねこ』の周りをうろついていたよ……限定メニューが気になるのかな……？」
「そうかもしれないな」
　魚の匂いが気になり、暗くなっても、たくさんの猫がうろついているかもしれない。
「寒さも和らいだから、野良達も暮らしやすくなるよ」
　猫達に釣った魚をおすそ分けしたほうがいいかな？　と苦笑する修に「それいいかも……」と同意する夏朝。

　２人は、店内に入る前に裏口から厨房へ。
「こんにちは、ケンゾウさん。今日から限定メニューを出すと聞いたよ。これ使って調理してくれないかな？」
　調理中の魚戸ケンゾウは、手を休めクーラーボックスの中に入っている魚を見せる。
「これ、チヌ（クロダイの別名）だな。アイナメまであるじゃねえか！」
「メバルもあるよ、父ちゃん」
　何があるんだい？　と気になった魚戸ハルコが指差したのは、春告魚と呼ばれるメバル。
「こいつは良い魚だ。ありがとよ」
　客にも食わせてやりてえというケンゾウの意見を尊重し、修が釣った魚は限定メニューに使われることに。
　クロダイはお造り、アイナメは味噌汁の具と煮付け、メバルは海鮮鍋の具として使われることが決まった。
「良かったね、八神君……」
「喜んでもらえて嬉しいよ。恵御納、一緒に海鮮鍋食べようか？」
「うん……食べよう……」
　夏朝と修は裏口から出て、お客として店内から改めて『うみねこ』に来ることに。

　開店時間になると、店前で待っていた何人かの客が『うみねこ』の中へ。
　客の中には、久し振りに様子を伺うのを兼ねて食事をしにきた天満七星の姿が。
「うみねこさん、繁盛しているかしら？」
　そう思いながら店の前を見ると、壁に貼られた限定メニューのお知らせのチラシが目についた。
「何やら、特別な献立があるようですわね」
　どのようなものでしょうか？　と七星は期待する。

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