【ホワイトデー】学生達のWhite Day!｜リアクション

【ホワイトデー】学生達のWhite Day!

【放課後】

　１年５組に響く生徒達のざわめきの中、まだ席に座ったままの佐藤英二は、両手に拳を握り、緊張したように机の１点を見つめていた。
（野々さんに、お返しをする……！）
　今日、英二は気合いが入っていた。入りまくっていた。授業では調理実習でののこと一緒のグループになれてとても楽しかったのだが、それでも放課後の事を思うと胸がドキドキしてしまい、ののこのフォローをするつもりが自分が手順を間違えてしまったりしていた。
　お返し。バレンタインのお返し。
　ののこは義理チョコのつもりだったのだろう。それは分かっている。それでも、英二は彼女からチョコを貰って嬉しかった。笑顔でくれたのが嬉しかった。
　英二は、ののこの笑顔を見ると、すごく幸せな気持ちになる。そして、彼女を笑顔にしたい、と思うのだ。
　だから、今日のお返しは頑張った。練習もばっちりして頑張った。
　その甲斐あって、お返しの手作りクッキーはなかなかの出来栄えだ。可愛らしいパンダ型のアイスボックスクッキー。味も勿論悪くない。クッキーを入れている缶ケースにも、薄紅色のリボンで結った花をつけ、とてもキュートに仕上げていた。
　それをポップな包装紙でラッピングして。佐藤英二、万全の布陣！　死角なし！

　しかし、将軍英二はそれでもまだ腰を上げていなかった。
（す、凄く緊張する……！）
　布陣を敷いても攻撃に出なければ意味がない。何としてでもこの力作をワタサナイワタシマスワタスワタストキワタセバワタセ―――！
　最初はどうなるかと思ったが、最後が命令形になったからまあ良しとしよう。混乱した頭で英二はののこの席を見た。ののこはまだのんびりと荷物をまとめている。机の両脇には大きな紙袋。彼女は本日、お返しの嵐だったのだ。英二はガタン！　と席を立つと、ほくほく顔で鼻歌を歌っている彼女に向かって、右手と右足を一緒に出しながら歩き出した。

「お？　英二くん？」
　奇妙な歩き方をしている英二にののこはいち早く気付いた。
「カッコイイ歩き方だねー！　流行ってるの？」
　にししと笑うののこの前に、ギシギシと歩いていた英二はようやく辿り着いた。
「え？　いや、は、流行ってはないと思うけど……」
「そーなの？　ロボットみたいでカッコイイよ！　私もやってみよっかなー」
　こう？　こうやるの？　とののこは楽しそうに腕を振ってみる。いつもは気さくにののこと話せる英二だが、本日の彼はどうもポンコツのようだ。それでも当初の目的を完遂すべく、英二は持てる勇気と気合いを総動員して無邪気なののこに言った。
「野々さん、えっと、これバレンタインのお返しのクッキーだよ。それなりに頑張って作ったんで、美味しく食べてもらえたら嬉しいな」
　エイッとののこの目の前に頑張って作ったクッキーを差し出す。ののこの目と口がまん丸になった。
「おー、お返しだー！　英二くんが作ったの？」
「う、うん。頑張ったつもりなんだけど」
「ありがとう！！　すごーい、すごいね、英二くん！　料理男子だー！」
　開けていい？　とののこが首を傾げて訊くので、英二はコクコクと無言で頷く。ヤッホーイ！　とののこがカラフルな包装紙を開け、お花が結ばれた缶を取り出した。
「かーわいい！」
　ニカッと笑うののこに、英二は思わず赤くなってしまう。ののこはそのまま缶を開け、ワーと目を大きくしながらクッキーを取り出した。
「パンダだー！」
　ののこがパクンとパンダを咥える。サクリ、と気持ちの良い音がした。
「美味しいよ、英二くん！」
「そう、よかった」
　笑顔のののこに英二はほっと胸を撫で下ろす。するとののこが缶からクッキーを取り出し、英二に差し出した。
「すっごく美味しいから、一緒に食べようよ英二くん！」
「え？　う、うん」
　言われるがまま、英二はクッキーを受け取ってしまう。きらきらと期待に満ちたののこの瞳に押されるように、英二は自分で作ったクッキーを囓った。
「ね？　美味しいでしょ？」
「……うん」
「へっへ～！」
　得意げに鼻をこするののこ。これではどっちが作ったのか分からない。ののこは満足そうにまたクッキーを手に取り、パクリと食べた。
「ホワイトデーって楽しいよね、英二くん！」
「そうだね」
　ののこの言葉に、英二はうんと頷いた。

　僕の作ったクッキーを君が食べてくれて。その屈託のない笑顔が目の前にあって。楽しくない訳がない。
　英二はののこと笑い合うと、またサクリとクッキーを食べた。

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