【ホワイトデー】学生達のWhite Day!｜リアクション

【ホワイトデー】学生達のWhite Day!

　青山絢はバレンタインのお返しに歩き回っていた。
　可愛らしくラッピングして友人達に渡しているのは、アイシングクッキー。季節を考え、桜やチューリップの花をあしらった、春っぽいものをモチーフにしたものだ。
　友チョコをくれた友人達１人１人にお礼を言って渡しながら絢は、
（対になるイベントがあって良かった）
とほっと安堵の息をついていた。

　絢はあまりキャイキャイとイベント事に乗るタイプではない。バレンタインだって、出費が嵩むからニャロルチョコでお茶を濁そうなんて考えていたくらいだ。なのに、なぜか絢は渡す相手のいないガッツリ本命チョコを作り、友チョコを配りそびれるはめになってしまった。
（あれは、本当に参ったわ……）
　脳裏にあの怒濤のバレンタインの原因である従姉の得意気な顔が浮かび、絢は思わず苦笑した。
　でも絢は、シーサイドタウンのマンションで一緒に暮らしているあの１２歳年上の従姉は嫌いではない。むしろ大好きだ。今日配っているクッキーだって、彼女から仕込まれたものだ。まあ、バイタリティーが溢れすぎていてたまに暴走する事があるのが玉に瑕だが。

　彼女には、感謝している。
　母の病死とそれから間もない父の再婚、そして１年と経たないうちに異母兄弟が生まれ。
　喪失感や割り切れない思いに苦しんでいた絢に、寝子島に来るようにと勧めてくれたのは彼女だった。
　寝子島に来て、良かったと思っている。こんなイベント事や友人達との会話が楽しいと思えるまで、自分の心は回復したのだから。

（放課後は部活もあるし、何とか帰りのＨＲまでに配っちゃわないと）
　今日は一ヶ月前の針の筵のような思いをする必要はない。期末の結果、進級も無事決まった。
　何の憂いもなく穏やかに流れる１日。絢は手元の紙袋にあるクッキーの包みを見て、ふふと微笑む。
　しかし、彼女はすっかり忘れていたのだ。一ヶ月前、自分を苦しめたあの本命チョコをどうしたのかを。