【ホワイトデー】学生達のWhite Day!｜リアクション

【ホワイトデー】学生達のWhite Day!

　今日の予定。放課後からお返しをしたい女の子２人を誘って、キャットロードに行く。という事で学校では特に予定のない御剣刀はいつも通りに過ごしていた。が、しかし。
（ホワイトデーってちょっとしたプレゼントを渡す口実にならないか？）
　日頃の感謝とか、タイミングが合わずに言えなかった事。そんな事を会って言うには良い切欠になるかもしれない。
　男子から気を張らずにプレゼントが出来る今日という日を逃す手はない。刀は購買部へと足を向けた。キャンディを買いに行くためだ。これを持って、お世話になった人や少し気になる人にちょっと会いに行こう。

「島岡先生！」
　刀は早速島岡雪乃の姿を認め、声をかけた。
　刀の担任であり、剣道部顧問でもある雪乃。剣道未経験で勝手が分からないにも拘わらず、顧問を快く引き受けてくれた雪乃に、刀はとても感謝をしていた。
（なのに留年しかけたりして……心配かけたよな、きっと）
　フツウでない追試を受けたり、補習に行くのをナゾの声に邪魔されたり。様々な苦難を乗り越え、何とか刀は進級をもぎとったが、担任である雪乃はきっとやきもきしたに違いない。感謝と申し訳なさを込めて、刀はキャンディを差し出した。
「先生、１年間お世話になりました。大変勉強になりました。出来れば来年も、先生の下で色々と学びたいです」
「えっ……？　え、え？」
　突然教え子に頭を下げられ、雪乃は戸惑う。キャンディを差し出しながら、刀はニッと笑った。
「いつもお世話になってるので、感謝の気持ちです。ほら、今日はホワイトデーですし」
「あっ、そうなんですね。えっと、突然でびっくりしましたけど……嬉しいです、ありがとう御剣君」
　雪乃はほんわりと笑うと、刀からキャンディを受け取る。そして２人は部活の事や進級の事などを少し話した後、別れた。

（さて、次は芽森菜々緒……というか『女王』だな）
　刀は一言では言い表せないくらい複雑な人生を送っている菜々緒の姿を探す。求めよ、さらば与えられん。卒業間近な３年は不定期登校、挙げ句に本人は神出鬼没という菜々緒であったが、何とか刀は校内にその姿を見つける事が出来た。
「よう女王、体調はどうだ？」
　刀の声に、さして驚きもせずに菜々緒がその銀髪をなびかせながら振り向いた。
「あら、刀君。お陰様で、調子はいいわ」
「それは良かった。はいキャンディ」
　気安い調子で、刀はキャンディを渡す。菜々緒の猫のような青色の瞳がぱちくりと瞬いた。
「どうして？　私、あなたに何もしてないわ？」
「どうしてって……気になるから」
「気になる？」
　首を傾げる菜々緒に、刀は曖昧に頷いた。
　理由は、色々あった。
　菜々緒はもうすぐ卒業だし、こうやって学校で話せる機会もなくなるだろうし。
　彼女とは、出会ってから今まで色々とあった。
　菜々緒と七男が死んで、その欠片が統合して今目の前の女王になって………今後どうなるか分からないけど、何とかなるなら何とかしたいと刀は思っていたのだ。
「……俺が歩いてきた道のりの中で得た、大切な物だから気になるんだが……悪い、上手く言えない」
「……そう。じゃあ、『ありがとう』と受け取っておくわ」
　菜々緒は静かに微笑んだ。その微笑みは、誰のものだろう。それが、全て彼女のものだと高らかに言える日がくればいい。
（俺にとって、君はこうやって何かを伝えたいって思えるくらいの人ではあるよ）
　胸にこみ上げてきた思いを、刀はそっと仕舞い込んだ。
「じゃあまたな、女王」
「ええ、また」
　２人はさりげなく微笑み合うと、背中合わせに歩き出した。
　交わった人生、過ぎ去った時間。
　そしてまた彼らは別れ、交わっていくのだろう。
　だから、女王。……またな。

　