だんじょん＆にゃらごん｜リアクション

だんじょん＆にゃらごん

■おのおののダンジョン
　荘厳なシャンデリアにきらめく宝石たち。台座で並んだ彫像と壺が端から順にたたき割られ、斧を持ったゴブリンが走り来る。
　子供ほどの体型でありながら強靱な脚力をもつ彼らは群れで行動し、一匹見たと思ったときには既に囲まれ一分足らずで死に至るというのはよく聞く話である。
　そんなゴブリンの群れを前に、冬華はナイフを強く握り込んだ。
　顔面を狙ったであろう斧の一撃――をサイドスウェーで回避。飛来した矢を前転で交わしつつ、ゴブリンの脇をナイフで切りつけていく。
　すぐさま立ち上がり、ジグザグに走る冬華。
　なんとかとらえようと殴りかかるゴブリンたちのすべてが空振りし、一方的なまでに切りつけられていく。
　床を蹴って飛び、壁を蹴って更に飛び、シャンデリアを掴んで鎖を切断。唯一の支えをうしなったシャンデリアは豪快に落下し、ゴブリンの群れを押しつぶして砕け散った。
　残骸の上にたちあがる冬華。
　額にうっすらと浮かんだ汗を手首でぬぐった。
　ついでに首から胸にかけてのボタンを外すと、熱気を外に放出する。
「モンスターの遭遇をさけて通ってきましたけれど、こういう所はさけにくいですね。少し休憩にしますか？」
　振り返る冬華。月は物陰から顔を出して頷いた。頷いて、はたと遠くに目をこらす。
「冬華、危ない！」
　声よりも早く飛び来たるは巨大蜘蛛の糸である。
　放った時点で既に網状となっていた糸が冬華にかぶり、彼女を強引に押し倒す。
　粘着質の糸故にすぐにはらうことかなわず冬華は強くもがいた。防具がずれて肩が露出していく。
　そんな様子をよしとしてか、巨大蜘蛛が冬華の前へ着地。
「それ以上近づくな」
　月がペンを抜き、ピストルのように構える。
　彼女から長く伸びた影が実体化し、蜘蛛に素早く組み付いた。
「冬華、大丈夫」
　蜘蛛と影がもみあっている間に冬華へかけより、糸をぶちぶちと切っていく。
　しかし困難というものは連続するものである。
　周囲に次々と子蜘蛛が沸き、彼女たちを取り囲むのだ。
　子蜘蛛といっても身の丈一メートルはあろうかという巨大さだ。群がられればひとたまりもなかろう。
「月さん……」
「心配ないよ。奥の手だ」
　月は複数の松明に火をつけて四方八方へ投げると、周囲に自らの影を無数に展開させた。
　その全てが起き上がり、子蜘蛛たちを叩きつぶしていく。
　だが肝心の敵は巨大な親蜘蛛である。
　この巨大な敵をどうしたものか……と思っていると、後ろから剣を持った美咲紀が突撃してきた。
「割り込み御免なのです！」
　剣を蜘蛛へと突き刺す。しかし狙いは倒すことでは無く組み付くこと。動きを制限された蜘蛛は美咲紀を爪で刺し殺そうとするが、硬い鎧にはじかれた。
「シュー君、いまです！」
「ありがとう。じっとしていてくれ」
　台座の上に飛び乗り、杖を振り込む修。
　魔法の炎が弾となって飛び、巨大蜘蛛を包み込んだ。
「巨大蜘蛛。硬い外殻だけど、熱を遮断できる種類じゃない。炎で包めばひとたまりもないだろう？」
「あちちちちっ」
　美咲紀は蜘蛛から離れてぱたぱたと離れていく。
　一方の蜘蛛は暫くじたばたもがいた後、近くの彫像と共に倒れて動かなくなった。
　近づいて死んだことを確認する修。冬華たちに振り返ると、二度ほど頷いた。
「怪我をしてるみたいだね。何かの縁だ、回復しておこう」
　これ鎧になりそうですーと言って蜘蛛の外殻をひっぺがす美咲紀をよそに、修は回復魔法を唱え始める。
「俺たちは最下層のドラゴンを倒すために進んでいるんだけど、どうかな。目的が一緒ならこの先協力するっていうのは」
「……」
　月と冬華は暫く顔を見合わせ、そしてゆっくりと立ち上がった。
「わかりました。それでは、よろしくお願いしますね」

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