だんじょん＆にゃらごん｜リアクション

だんじょん＆にゃらごん

■いつものパーティー
「『森の小道』」
　杖を翳して詠唱を終えた八神修。彼の前でうっそうと生い茂っていた雑草が一斉にぺたんと倒れ、あたかも彼を導くかのように通路を形成し始めた。
　ぱちんと手を叩く椿美咲紀。
「わあっ、これならダンジョンまで近道できるのです！　新しい魔法、相変わらず便利ですねえ」
「伊達にマルチキャスターをやっていないからね」
　２１世紀のジャパンにオール電化のご家庭があるように、この世界にはオール魔力でパーティーに必要な作業一式をこなしてしまう魔法使いがいた。盗賊や狩人がいなくても細々した立ち回りができるため万能職とされているがひとつひとつの決定打にはなりづらい。魔法火力でバシバシ押していく魔法使いとは異なるスキル構成である。
　そんな彼なので、キッチリ前に出て戦う担当が必要になる。
　美咲紀はまさにうってつけの仲間だった。
　頭部を守るサークレットをきゅっとはめ込み、いつモンスターが出てきてもいいように剣を抜く美咲紀。
「先頭は任せるのです！　敵が出てきてもバシッとやっつけるのですよー」
　きりりと眉をつり上げる美咲紀に、修は『頼りにしてるよ』と言って歩き出した。

　所変わって町のパン屋。
「これだけ買い込めばバッチリですね」
　リュックサックにパンやブドウ飲料を詰め込み、最後に装備の点検をする北条冬華。
　桜月が後ろから身体を傾けて覗き込んだ。
「ずいぶん、念入りに準備をするんだね」
「ご飯は重量なんですよ。お腹がすいたらすぐバテてしまうんですから」
　世にはモンスターを煮るなり焼くなりして食べる人も居るとは聞くが、ああいうのは上級者向けすぎる。そしてシナリオの趣旨から離れすぎる。楽しそうだけど。
「今日の目標は最深部のドラゴン退治ですよ。無理をしないで、気をつけて行きましょうね」
「うん……」
　月は魔法のペンを指の上でくるくると回すと、腰のベルトにひっかけた。
　全身を通して黒っぽい、ともすればドレスのような装備である。
　ひとりでにふわふわと靡くマントとオーバースカートから喪服めいた印象すらうけるが、皮鎧とペンの存在が冒険者の要素をくっきりと残していた。
　リュックサックを背負いなおして歩き出す冬華。
「ねえ、帰ったらお風呂はいりたいなあ」
「あらあら、甘えるのはまだ早いですよ」

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