【ホワイトデー】煌燦-KiraKira-ホワイトアイランド｜リアクション

【ホワイトデー】煌燦-KiraKira-ホワイトアイランド

● 動物園～シロクマ舎の前で

　ミルクティブラウンの髪を春風になびかせ、楢木春彦はのんびりとした歩調で動物たちの柵に沿って歩いていた。今日はひとり。まわりはカップル様ばかり。
（はぁ……やっぱこの時期はカップルが目立つよな。あ、今の、志波先輩の弟君……隣にいるのは彼女かな）
　すれ違った幸せそうな少年少女を横目で見遣り、声はかけずに小石を蹴る。
（ったく独り身には寂しい季節だぜ）
　今日はホワイトデーにちなんだアートイベントが行われているという。
　白い動物たちとふれあえるというので、ふれあい広場を覗いてみる。
　ウサギは可愛い。ヤギもヒツジもアルパカも可愛い。白いポニーも可愛いが、春彦が会いたい白い動物はここにはいない。柵越しに眺め、先へ進む。
　キリンなどの草食動物エリアを過ぎ、サル山を過ぎ、水辺エリアへとやってきた春彦は、シロクマ舎の前で足を止める。シロクマの親子が、人間が騒ぐホワイトデーなど知らぬ顔で、のんびりとプールサイドに寝そべっていた。
「よぉ」
　春彦は、かつての事件で命を救った母熊グリフとその子ヒースにあいさつした。
「グリフにヒースも元気してっかー。ヒースなんか前よりちっとデカくなったんじゃねー？」
　春彦の声が聞こえたのか、ヒースはドボンとプールに飛び込み、上手な泳ぎを披露する。くるり、くるりと水中で身を捩り、みた？　と言うように顔を出して春彦を見る。
「おー、すげーじゃん」
　春彦は応えて、拍手を送った。すると――、
「ふふ」
　聞き覚えのある笑い声に、春彦は振り向く。

　黒いセーラー服。胸元にピンクのくま。
　目を細めて笑っているのは、幾度か人狼ゲームで縁があった戸影エムアだ。
「あれ、戸影さん？　この前はどーも」
「こんにちは。奇遇ですね」
「だな。あ、もしかして、戸影さん、クマ好きだったり？」
　春彦はエムアの胸元のピンクのクマを指さしてみる。
「そうですね。嫌いではありません。狼の方がもっと好きですが」
「狼っていうか、エムアさんがマジ好きなのって人狼っすよね？」
「ご明察」
　エムアはまた、ふふ、と口の端を引き上げる。
「あ、そうだ！」と春彦は手を打った。「コレ良かったら戸影さんもどーぞっす」
　取り出したのは――色とりどりのデコレーションカップケーキだ。

「私に？」
　シロクマ舎の前でカップケーキという異色のシチュエーションに、エムアは些か戸惑った様子だ。
「誰かほかにあげる人がいるのでは？」
「いいっすいいっす。誰かに会ったら渡そうかな程度で、特定の相手がいたわけじゃないんで」
「ふふ。寂しいですか？」
「えぐってきますねー」
　からかい調子になってきたエムアに、春彦は苦笑した。
「エムアさんには屋敷で毎回菓子ご馳走になってるし。結構多めに買ってきてるんでいくつか好きに持ってイイっすよー」
「そうですか。では遠慮なく……とひとりで貰って頬張るのでは味気ないですね。折角ですからあそこのベンチでいっしょに食べましょう」

　それもそうだ。春彦とエムアは、シロクマ舎を眺め見ることができるベンチに並んで掛けた。
　パステルカラーのクリームの上に、蝶や花や果実があしらわれたカップケーキが並ぶさまは、まるで宝石箱を覗き込んでいるかのようだ。エムアは淡いブルーのミントクリームとチョコレート生地のカップケーキを選び、春彦はドライ苺とピスタチオに苺クリームのものを選んだ。
　いただきます、と頬張れば、口の中に甘いクリームの味が広がる。
「これは……なかなかですね」
　エムアは満足げに、口唇についたクリームを赤い舌で舐めとる。
　と、そこに、キャンディ籠を下げたマンボウ君が通りかかった。
「お兄さん、お姉さん、『特製白うさぎキャンディ』をどうぞ～」
「お。俺も貰ってもイイのか？　サンキュー」
　エムアの分と二つ取り、ひとつをエムアに差し出す。
　エムアはうさぎ型のキャンディを、帽子のリボンに差し込んで飾った。
「んじゃ、俺もコレお返しに１個やるぜー」
「きゅ～！　ありがと～！」
　手（ヒレ？）が短くて、自分では取れなかったので、春彦はカップケーキをひとつ籐籠の中にいれてやった。

　エムアと別れて猛獣エリアを見て帰る。
　遠目に、クロヒョウの檻の前に佇む卯木衛と壬生由貴奈を見かけた。あちらはデートだろうか。
　春彦は、友人の工藤耀の幸せそうな顔を思い浮かべた。
「あいつらも爆発してんだろーなぁ。今度会ったトキにでもぜってぇからかってやる」

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