【ホワイトデー】煌燦-KiraKira-ホワイトアイランド｜リアクション

【ホワイトデー】煌燦-KiraKira-ホワイトアイランド

● 動物園～それぞれの春

「はい、華菜子さん、アーン」
「五月ちゃんも、アーン」
　ベンチに座って、薄野五月と畑中華菜子が互いのプレゼントのクッキーを食べさせ合いっこしている。
「華菜子さんのナルトクッキー、美味しいですよ」
「五月ちゃんのクッキーもおいしいアル！」
　もぎゅもぎゅ食べて、空を仰ぐ。街路樹の枝には淡い緑の若葉が芽吹きつつある。
「もうすぐ春アルナー」
「そうですね」
「４月になったら今同じクラスの五月ちゃんともクラス替えでお別れアルー」
「そうですねー」
「また同じクラスになれたらいいアルヨね」
「ええ。また同じクラスになりたいですね」
「なれなくても……」
　華菜子は五月の手を握る。
「ずっとお友達だし、新しいクラスで新しいお友達も出来たらいいなーって思うアル！」

「はい」
　五月は手を握り返し、にこりと華菜子にほほ笑んだ。

◇

　飛吹勘助と遠野まほろは、小指を絡めて歩いている。
　ふれあいコーナーで和んだ後、ゾウも見て、キリンも見て、ライオンも見た。
　勘助は、去年の夏、こうして手を繋いだときのことを思い出していた。あれは夢の中だったのかもしれない。気づけば何故か手を繋いでいた。手を離すと眠ってしまうという状況だった。思えばあのときが、まほろとの出会いだった。
　いま、より自然な状況で、怯えずにまほろと手を繋いでいる。
　手の温かさは夢じゃない。彼女が横にいるのは夢じゃない。
「なんだか、私、飛吹くんと一緒に居るの好きだな」
　ほころびつつある小枝を見上げ、まほろがぽつりと口にする。
「こうやって動物園にこれたのも嬉しかったし。また一緒にお出掛けもしたいなぁ」
「ま、また、一緒に……」
　勘助は照れて、片手に抱いているもふもふとたれもふの合間に顔を埋める。
　驚きと喜びが交互に波となって心を揺さぶる。
　予感する。今日このときは、勘助にとって、人生のひとつの転機になりうるだろう。
「ふふ、もふもふみたいにずっとっていうわけにはいかないけど」
　まほろは肩を竦める。勘助より、まほろの方が、ちょっとお姉さん気分のようだ。
「かわりに。たれもふを傍においてあげてね」

◇

「今日は楽しかったね」
　と本居陽毬が言う。
「俺、クッキー１枚も食ってねえけどな」
　と水守流が答える。
　けれど、流は怒ってるわけじゃない。寧ろ楽しそうな口ぶりだ。
　あのあと、流と陽毬は存分に動物と戯れた。あんなにもっふもっふとふれあえるのはレアだろう。
「あーお腹空いたなー」
　と陽毬が言う。
「俺のクッキー全部食ったろう」
　と流が答える。
　けれど、あんなものじゃ全然足りないってことを、流はちゃんとご存知だ。
「ま、ちゃんと飯おごってやっから心配すんなって」
「ホント！？　やったー！」
　諸手を上げて喜ぶ陽毬に、流はしっかり釘を刺す。
「あ、でも価格制限はありありでな！」