【ホワイトデー】煌燦-KiraKira-ホワイトアイランド｜リアクション

【ホワイトデー】煌燦-KiraKira-ホワイトアイランド

● 美術館～白の芸術展

　ホワイトデーのイベントに合わせて、森繁美術館では国内外のアーティストによる「白」をテーマにした「白の芸術展」が開かれている。芸術鑑賞に訪れたサキリ・デイジーカッターは、そこで偶然、黒の帽子を目深に被ったリンコ・ヘミングウェイの姿を見つけた。
　リンコは、サキリが所属しているオカルト事件調査会社R&R Agencyの現社長である。
　サキリは前線で荒事担当がメインなので、おもに事務所での連絡役を担うリンコとはあまり接点がなかったのだが、一度話をしてみたいとは思っていた。
「こんにちは。お一人ですか」
　礼儀正しく声を掛けると、リンコは振り向き、思いがけぬ知り合いと邂逅に驚きの表情を浮かべた。
「そうよ。あなたも？」
「ええ。よろしければご一緒しても？」
「もちろん」
　快諾を貰ったところで、サキリはもうひとつ願い出てみる。
「プライベートではリンコさんとお呼びしていいかな」
　するとリンコはふふっと笑った。
「どうぞ。普段だって、社長なんて堅苦しく呼ばなくていいのよ？」

◇

　絵を描くのは苦手だが、絵を鑑賞するのは好きだ。
　白をモチーフとした作品がこんなにあるのか、ということにまず驚く。それからその多様さにも。
「僕がここに来た一番の理由はR&Rでの最初の依頼、『春の肖像』事件で関わった深見遥幻の作品が展示されると聞いたからなんです」
　深見遥幻は大正後期から昭和初期にかけて活躍した油絵画家で、日本画の手法を取り入れた画風が売りだった。今回展示されるのは日本画の見返り美人の構図をしたヌード画だという。モデルはあるいは、あの幽霊事件の主人公、深見フユではないかとサキリは推察していた。
「あれは歪んだ愛がもたらした悲しい事件だと思う」
　絵の前に立つ。
「この絵の作者は、モデルのこと、愛してたのね」
　リンコがぽつりと漏らす。サキリも同じ感想を抱いた。
　あの枯れた家で感じた物寂しさと愛情が、この絵からも感じられた。
　遥幻という人は、情深く、不器用な画家だったのではないかと思った。

　芸術鑑賞のあと、美術館の傍の喫茶店に誘った。
　美術館内を歩くのは、じっくり鑑賞すればするほど、思ったより疲れる。高いヒールならなおのことだ。リンコは足が痛いわと言って、サキリの誘いを喜んだ。
　紅茶とおすすめのケーキを注文し、芸術展の感想やR&Rの話に花を咲かせる。
「僕はろっこんの力をフツウを守る為に役立てたいんです。だから、R&Rという会社を作った坂内先輩には感謝しているんです」
　とサキリは言った。

「この際正直に言うと僕はリンコさんを羨ましいと思ってました」
「羨ましい？」
　リンコが興味深そうに反復する。サキリはそれに頷き、リンコを正面から見つめる。
「あなたは坂内先輩の片腕的存在だ。僕も坂内先輩からもう一方の腕として認められるくらいに成長したいと思っているのだけど……これは自意識過剰かな？」
「そういう意味の自意識過剰なら、けっこうなことじゃない？」
　とリンコは紅茶に口づける。
「人生を面白くしようと思ったら、そのくらいの気概はなくっちゃ」

　帰り際、サキリはリンコに、クッキーを買ってプレゼントした。
「悪いわ。バレンタインに何もプレゼントしていないのよ？」
　リンコは一度は断ったが、
「ホワイトデーだしお茶に付き合ってくれたお礼だね。今後ともどうかよろしく」
　と告げると、年下の男の子の心遣いを無碍にしたら女が廃ると思ったのか、快く受け取ってウィンクした。
「じゃあ、また。Ｒ＆Ｒでね」