【ホワイトデー】煌燦-KiraKira-ホワイトアイランド｜リアクション

【ホワイトデー】煌燦-KiraKira-ホワイトアイランド

● 美術館～美を愛でる

　ロベルト・エメリヤノフは美少年が好きだ。だから、今、ロベルトを取り巻く美少年のひとり、来島アカリと並び歩いていることに、この上ない幸せを感じている。
（ホワイトデーも美少年とデートだなんて夢みたいだ！）
　ロベルトはバレンタインに、獅子目悠月とアカリ、ふたりからチョコレートを貰った。
　ホワイトデーのお返しはもちろん二つ用意して、そのうちひとつは午前中のうちに悠月に渡してある。残りはアカリの分で、どうやって渡そうかなと思案していたら、彼の方から美術館に行きたいと申し出があった。ロベルトが芸術科の所属で、絵画を専攻しているので、アカリも興味をもったようである。
「先輩が見てるものとか、俺も知りたいなーって？」
　なんといじらしいのだろう。
「……じゃあ、置いてきぼりにしないようにするね」
「はい。あんまり行ったことないんで、マナーとか教えてください、ね」
「飲食やカメラは禁止って程度だよ。はしゃいだり走り回ったりするのは勿論マナー違反だけれど、来島はそんなことしないだろう？　あとは、ただ、いいなと思うものを素直に観ればいいよ」

　そう言われても、芸術はときに、凡人には理解しがたい。
　白い壁に、白いひび割れを描いたかのような抽象画。
　ぐにゃぐにゃしたかたちの謎のオブジェ。
　どう感じていいかわからないものも多数ある。
「むー……素直に？」
　いいなと思ったのは、立体的に絵の具が盛られた、白い渦模様の油絵だった。
　一方、ロベルトの興味は抽象的なものよりは、かたちの美しいものや人物をモチーフにしたものにあるようで、もっとも長く足を止めていたのは、ミロのヴィーナスのオマージュと思しき、腕のない少年像の前だった。
「見て来島、ほら……君の肌もあれぐらい白くて美しいよね……」
「そう、ですか？」
　ロベルトのうっとりとした顏に、アカリはちょっぴり嫉妬する。
（彫刻に嫉妬するなんて、どうかしてる、よな）
　理性はそう思うのに、心は儘ならないものだ。

　そうこうするうち吹き抜けのホールに出た。チラシにも載っていた、ハート型のリングをふたつ組み合ったような白いオブジェがそそり立っている。
「へえ、こんなのもあるんだ……えーっと……どれどれ？　『Good luck』――幸いあれ、か」
　ロベルトが台座に打ち付けられたブリキ板に彫られたタイトルを読み上げる。
　アカリはチラシの謳い文句を反芻していた。
　――このオブジェの前でホワイトデーのお返しをすると、ハッピーなカップルになれるとか。
（よし、ここでなら……）
　持ってきた紙袋の持ち手を強く握る。
「せ、先輩！」
「ん？」
「これ、ホワイトデーのお返し、です」
　紙袋から取り出したのは、花とキャンディを包んだキャンディブーケだった。
「く、来島……！？　ありがとう！！」
　ロベルトは気づいただろうか。このキャンディブーケに込められた意味に。
　飴の味は、甘いイチゴと初恋のレモン。
　束ねた赤いアネモネの花言葉は「君を愛す」。黄色のヒヤシンスは「あなたとなら幸せ」と「勝負」。それから自分の名前と同じ淡い桃色のアカリの花。花言葉のひとつは「初恋」――。

「せ、先輩！　えっと、俺、その……」
　恋心が喉元までせり上がってくる。が、ロベルトの無邪気な笑顔がそれが形になることを阻んだ。
「どうしたの？　来島」
「あ、えと、」
　言えない告白の言葉。
「うん……？　そうだ、僕もお返しするね！　来島のために、オーダーメイドで作ってもらったんだ」
　ロベルトは、アカリに、白猫マカロンをプレゼントした。六匹の様々な表情のネコのうち、一匹だけ傲倨な顔のサバトラなのがこだわりだ。
「ありがとうござい、ます……」
　贈り物はもちろん嬉しかったが、どうしても奥歯にものが挟まったような言い方になる。
（むー……言えなかった……）
　アカリはそっと唇を噛む。
（でも、まだチャンスはあるはず……！）