空想ラストバトル！？｜リアクション

空想ラストバトル！？

　魔法だけでは埒が明かないと判断したイッセンが、闇の剣を構え向かってくる。
　蔓薔薇の壁の隙間からそれを見て取って、八神修は叫んだ。
「来るぞ！」
　駆けてくるイッセンの前へと、とび出したのは優木遥斗だ。
（――ここで止める）
　闇の剣を持つ手を打ち据えんと、鋭く唸る遥斗の操る棍。
　しかし、その一撃はギリギリのところでイッセンの剣に受け止められた。
　ガキン、と武器と武器がぶつかり合う鈍い音。
　相手の剣を弾いて、遥斗は、イッセンから幾らか距離を取る。
　神経を集中させれば――遠く、下卑た歓声が聞こえる気がした。
（そういえば、周りに観客がいるんだったな）
　改めて認識するが、遥斗の心が乱れることはない。
　観客の目を集めながら戦うことには、剣道の戦いで慣れている。
　遥斗は、バサリと上着を脱ぎ捨てた。
　剣道で鍛えた身体が、露わになる。
「これでどうだ」
　姿の見えない観客達へと、いっそ挑戦的に言い放つ遥斗。
　鎧も、盾もない。くぐもった喧騒が、一層沸くのを感じた。
　勿論、怪我のリスクは高まるかもしれない。だが。

「……盛り上げてやる」
　遥斗の呟きを前に、剣を構えたイッセンが眉を顰める。
「……どういうつもりだ」
「こっちの事情だ。さて……一本の武器でどこまでいけるか試させてもらおう」
　言って、遥斗は頭上に振り回した棍を、イッセンへと突き付けて構えを取った。そして、一方。
「大変悲しい話だが、俺達には足りないものがそれなりにある」
　蔓薔薇の壁の内側、重々しい口調で言ったのは卯木衛だ。
（一気にケリをつけるのが一番良いけど……）
　という具合に思考を働かせていた鴻上彰尋はその言葉にハッとして衛の方を見遣り、
「俺たちに足りないもの、か……なんだ？」
　と、来島アカリもピンクの瞳に一層真剣な色を乗せて衛を見つめた。
　ぴっ、と指を立てる衛。
「１つ、一閃さんに敵うだけの機動力」
「成る程……」
　アカリが、うんうんと頷く。
「１つ、一撃で沈められる程の戦闘力」
「そうだね、早期決着には作戦が必要か……」
　彰尋が、思案げに眼差しを伏せる。
「そして１つ、体格」
　真面目な顔で言い切る衛、暫し言葉を失うアカリと彰尋。やがてアカリが、
「……お、おう」
　とだけ、何とも言えない微妙な顔で零した。
「って、なんだよその間！」
「いや、そりゃ体格は、なぁ……？」
「最後のお前だけだろみたいな顔すんな！　全員だからな！」
　衛が声を荒げる中、アカリと彰尋が顔を見合わせる。
　憤慨しきり、衛が叫んだ。
「全員文系理系だから、俺達じゃまともに打ち合っても力負けするっつってんだよ！」
　今度の訴えには、アカリも彰尋も納得である。
　現状、遥斗だけが前に出てイッセンと見事に渡り合っているが、相手には魔法もあるのだ。
「ずっとここでじっとはしてられないだろ？　……つーわけで、だ」
　負けてることを利点に動けない敵を作る作戦はどうだ？　と衛は瞳を光らせた。
「むー……とりあえず、聞くだけ聞いてやろう」
「俺も、卯木君に案があるなら、それに賭けたい」
　その反応に頷いて、「具体的には……」と衛はひそひそと小声で２人に耳打ちを零す。
　作戦を共有し終えた後、彰尋は、
「それじゃあ、一閃さんへ回復が行かなくなるように俺があおいさんの気をそらせるよ」
　と、凛とした眼差しをして請け負った。
「よし、姫の方はよろしくな、鴻上。俺は……まずはイッセンさんに近づかなきゃ、だな」
　言って、アカリは神経を集中させるように目を閉じる。
（とくれば、機動力を確保しねーと。空を自由に飛ぶ翼……）
　イメージを働かせて、アカリはすぅと目を開いた。
　最初に目に入ったのは、自分を見つめる彰尋の、驚いた顔。
「……ん？」
　アカリは彰尋が見ているのと同じものを見て――そして、思わず声を上げた。

「な、なんだこれー！？」
　イメージの中に、うっかり、以前天使の姿になった時のことが混ざってしまったらしい。
　背まで伸びた髪に、身に纏うは純白の衣装。
　今ここに、美少女天使（但し女装である）が爆誕した。
「む、むー……これで飛んだら、スカートが……でも、やるしかない、んだよな……」
　ふわり、と天使アカリが舞い上がる。
「俺は卯木と一緒にイッセンさんの方に向かう、から……」
　――お姫様は鴻上に任せた、ぞ？
　少し笑って、アカリは翼をはためかせ、戦いの場へと赴く。
　案の定スカートの中身がチラ見えしていたことには、彰尋も衛も敢えて言及しなかった。

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空想ラストバトル！？

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