マダムキラー｜リアクション

マダムキラー

●マダムの食事会

「寝子高体育科1年9組、後木真央なのだ。マダムちゃん今日はお招き頂きまして、ありがとうなのだ！」
　千代子に向かって、真央は元気に挨拶する。
「座ったままでごめんあそばせ。かわいらしいお嬢さん、何をお話してくださるのかしら？」
「んーと、真央ちゃんは寝子高の猫鳴館で生活してるのだ。
　みんなで薄い本のネタなキャベツ育てたり、卵わっしょい♪な鶏飼ったり、大広間で遅くまでお話したり。
　授業で寝子島最古木を見に行ったりもして、毎日とっても楽しいのだ」
　真央が語る猫鳴館の日常はハプニングの連続で、セレブの感覚では、かなり刺激的だ。
　それでも真央の表情は生き生きと、猫鳴館への愛で溢れている。
　だから千代子も育ちの良さを感じさせる、おっとりした口調で笑って言った。
「楽しそうね」
「ご飯奢ってくれる人は、いい人なのだ！　マダムちゃんお話好きなのだ？」
　千代子は頷く。
「なら、今度一緒に猫鳴館でお茶会しようなのだ！
　うちの寮の皆は、一癖あるけど優しいのだ。きっとマダムちゃん気に入るのだ！」
　意気揚々の真央を、天野がつついた。
「マダム達を招待するなら、お店のが良いよ。体が悪い人を無理させてはいけないよ」
「あう～、そっかーなのだ……」
　肩を落とせば、千代子はにこやかに「いつかお邪魔させて頂きたいわ」と言い、真央は猫のように目を輝かせた。

「次は僕だね、逆巻天野です。マダムは九夜山という山の由来は……ご存知ですか？」
「いいえ、存じ上げないわ」
　天野は語る、寝子島に伝わる『砂掛谷の大鯰』と『九夜山に眠る伝説の要石』の話を。
　砂掛谷の悪戯好きの大鯰に困った住民は、神主に依頼して大鯰を退治したと伝えられる。
　そして九夜山の何処かに、注連縄を巻かれた大岩が存在し、それが要石ではないかという噂。
　ある日、前触れなしに九夜山は浮き上がり、三夜湖の水も球体となって浮かび出し、大鯰がついに姿を見せる。

「なんて。もし鯰と空を浮遊できたら、面白いと思いませんか？」
　あたかも作り話のように天野は言い、千代子はそれに心から同意した。
「空を飛ぶなんて夢のあるお話ね」

　旅鴉月詠は、千代子の姿をスケッチブックに写し取る。
　絵の中の千代子は微笑んではいるが、雰囲気はどこか寂しさが漂う。
「ふむ、次は私が話そう」
　進み出た月詠は、マリンパラダイスで目にした幻想的風景を話した。
　水槽トンネルを泳ぐ魚の群れ、うっかり者のペンギン、イルカに近づけば一緒に泳いでいるかのような錯覚に陥る。
　月詠が描いた美しい絵に添えられる体験談に、千代子は少女のように喜んだ。
「素敵ねえ」
　ため息まじりの彼女に、月詠は先日参道商店街でメイドを手伝って服のモデルをした体験を語った。
「商店街の留守番をしたのですが、あそこはいつも賑やかで楽しいですよ」
　その様子を思い浮かべ、期待に満ちた目をする千代子の前に、弘明寺能美子と御剣刀も立つ。

「御機嫌よう、マダム」
　優雅に一礼する能美子の所作が、普段の“ツンドラギャル”なイメージとかけ離れていたので刀は目を剥き、そして我に返って頭を下げた。
「まあ、すらっとして綺麗なお嬢さん。そちらは彼氏？」
「え？　いや……！」
「嫌ですわ、マダム。御剣さんとは……ただのお友達です」
　口元に手を当て、能美子は気品に満ちた笑みをこぼす。
　慌てて訂正しようとしていた刀は、盛大にずっこけた。
「どうかなさって？」
「……何でもないです」
（弄られてる！？　あれ、でも弘明寺……俺を友達って言った？）
　千代子と談笑する能美子を横目で見る。
（こんな一面もあるんだな……友達か）
　こみ上げてきた嬉しさで、思わず拳を握り締める。
（……御剣さんたら、何をにやにやしてるのかしら？　変な人）