マダムキラー｜リアクション

マダムキラー

●食事会前日　～猫鳴館～

　『ステッラ・デッラ・コリーナ』食事会を明日に控え、後木真央は着ていく服で悩んでいた。
　猫鳴館の自室。床に並べられた服の中で一番おしゃれと言えるのは、バリエーション豊かな猫アップリケで補修された、学校指定の赤いジャージ。
「ジャージは高級ホテルのイメージに合わない気がするのだ……あ、タッパーも準備なのだ！」
　ぽんと手を打ち狭い台所に向かえば、逆巻天野がくつろいでいた。
「やあ、後木。丁度お湯を沸かしたところだから、君も飲みたければどうぞ。って何？　そのリュック」
　真央が抱えた、かわいらしいリュックに目を留め、天野が湯呑みを置く。
「タッパー取りに来たのだ！　持って行くのだ」
「木の実でも拾いにいくのかい？」
「真央ちゃん、明日マダムちゃんのお食事会に行くのだ！　余ったおやつをお持ち帰りして、皆で食べるのだ」
「なるほど。猫鳴館で他に行く人がいたとは驚いたけど。本当、君らしいね」
「天野ちゃんも、お食事会行くのだ？」
「そのつもりだよ」
「じゃあ一緒に行くのだ、楽しみなのだ！　お迎えバスに乗るのだ？
　それとも早起きして、真央ちゃんと猫様ウォッチング？　天野ちゃんも、梅組さんチケット使うのだ？」
　まくし立てるように喋り続ける真央に、天野はきょとんとする。
「え、後木も食事会に参加するんだろ？」
　食事会に参加者するなら、チケットを使う必要がない。
「真央ちゃん、お昼はマダムちゃんと話して、3時にチケットでお菓子食べて食い倒れるのだ！」
　弾んだ声で、真央は天野の疑問に答えた。
「いや、はい……？」
　混乱してきたので、整理すると。
　真央は三人四脚の賞品のチケットで、ビュッフェを立て続けに2回楽しもうと言うのである。

　マジで！？

　真意を問うように、真央の瞳を覗き込む天野。
　無邪気な少女の微笑みには、一点の曇りも無かった。

「ああ、うん……わかった。本当に君らしいね……ええー、チケットの話だったっけ？
　僕はあまり量を食べれないから、チケットは誰かに譲るつもりなんだ。
　でもあげるにしても、どんな雰囲気か知っていて損はないと思うし」
　どちらかと言うと、僕は“面白い話”のが、気になるかな。
　彼女達がどんな人なのか気になるし、もれいびかもしれないしね。
　天野がそっと落とした言葉を、真央は聞いていなかった。
「確かに、天野ちゃん小食だったのだ。分かったのだ、また明日なのだ！」
「後木、着て行く服とか決まった？」
　服の話に、真央は急ブレーキをかける。
「まだなのだ。何を着ていったらいいか、わからないのだ」
「そっか、じゃあ聞いてみるよ。確か連絡先が書いてあったはずだから」
「天野ちゃん、ありがとうなのだ！　助かるのだ」
　小躍りする真央をよそに、天野は食事会の主催者である拝島薫に電話をかけた。

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