【星幽塔】第九階層　星が飾ったカナーリス｜リアクション

【星幽塔】第九階層　星が飾ったカナーリス

　食堂には、様々な料理がごった返していた。
　机上に乱雑に盛られた総菜を皿に取り分ける商人たちは、今日の海の話をしている。
　風はやや北向き――涼やかな風が吹き、海は『出易い』が、風が無い分、襲い来る生物の数も多いそうだ。
「おっちゃん、こっちのねーちゃんが話したいってー」
　子供たちに付き添われながら１の島の食堂へと訪れた月は、集まった注目に瞬く。
　元より色素の薄い彼女が日光の下、歩き回るのは中々に骨が折れる。休息も兼ねて汗を拭う彼女の顔色を心配したのか数人の商人が席へと招き入れた。
「お嬢ちゃん、案外ここは遠かったろ？　何だい、折り入って話があるってのかい？」
「２の島を探してるんだ」
　一息ついて、特産だという茶で喉を潤した月が単刀直入に尋ねた言葉に商人たちが瞬いた。
　子供達には御伽噺と言われたソレ――アステリズムたるピエロットが嘘を吐くとは思えない。
「情報は買いに来たのかい？」
　樽ビールを抱えていた偉丈夫の言葉に月は大きく頷く。食堂で食事を囲んでの商談は俄かに盛り上がりを見せ始めた。
「ギブアンドイテイク、基本だ。２の島で手に入れたものを君たちに渡すというのはどうかな？」
　御伽噺と言われたならば、幻と呼ぶに相応しいのかもしれない。
　月の言葉に商人たちは成程と大きく頷いた。食事を行いながら会話を続ける月に商人たちは楽し気に乗ってくる。
「ついでだけど、私はいくつか欲しい情報があるんだ。
　アルゴーにはなさそうな、羅針盤、地図海図……。皆から貰った情報をもとに２の島を特定したら必要になると思う」
「それなら、チコリスの店に揃ってるよ」
　まるでファンタジーのゲームだ。
　次々にヒントとなるコマンドが生まれてくる。一つ一つを耳にしながら頷く月が得たのは御伽噺による情報――きっと２の島だと噂されてはいるが、周囲に『かいぶつ』の影が多く、近づくことが出来ない小島があるのだという。

　一方で――「おっちゃん、今日の収穫はどうだい？」
　食堂で商人たちと肩を組み合った豪は入江みつびと共に楽し気に語らっている。
　アルゴーの駆動部分に黄金花を探している――交易船のピンチだと困るでしょうとみつびが問い掛ければ
商人たちは小さく唸った。
「ううん……そりゃあなあ」
「情報らしきものはあるんだがなあ」
　タダでは済まないのが商人たちだ。１の島の商人たちは皆、揃って『商人としてのプライド』を持ち得ている。
　みつびは『魚人さん』達に信頼してもらうのが必要ね、と豪と視線を合わせ頷き合った。
「お礼が必要なんだよね？」
「お礼だって言うなら、そうだな……俺は準備してきたんだぜ」
　にぃ、と口許に笑み乗せて豪が身を乗り出した。焼けば香り立ち鎮静作用のあるホットカカオ。接種のし過ぎにはご注意だというそれは『火照り効果』が少し高いのだと豪は言う。
　ある意味では危険物なそれを差し出し、「実はな……」と商人たちへとささやく豪の得意げな表情がみつびには不思議に見えた。
（――……なんだろう？）
　首を傾ぐみつびの隣で、少年少女も不思議気に首傾ぐ。
　成程、ホットカカオは商人たちにも人気だ。一方で、御伽噺を聞きたいというみつびに少年少女たちがネッシーのぬいぐるみが欲しいとはしゃぎ始める。
　みつびにとっても大切な『ネッシー』、渡せないなぁと肩を竦める彼女が差し出したモグラダイヤのブレスレット。
「２つあるから１つあげてもいいよ。綺麗でしょー」
　にこりと微笑んだ彼女に少年たちが語ったのは洞窟は迷路となっており『花を求めるもの』を探しているのだという。
「花を求めるもの……」
「俺達みたいな？」
　二人は、花を探しに来た旅人である。もしかして、と顔を見合わせた二人に少年少女は「あとねえ」と付け加えた。
「お花が咲くには条件があるんだよねえ」

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