FEAR THE FORCE：変異-METAMORPHOSE｜リアクション

FEAR THE FORCE：変異-METAMORPHOSE

　風が出てきた。
　三月の甘い風である。
　そこに乗るのはさらに甘い、麝香（ムスク）に似た香りだ。
　春風が、胡乱路秘子の長い髪をもてあそぶ。緋がかった紫色の光沢をもつ髪の間からは、馥郁たる粒子がこぼれ、風に溶け混じっていくのだった。
「んふふふふ……」
　とろとろに煮た甘味を口に含んだような、恍惚とした笑みを秘子は浮かべていた。見る人によっては、怖いほどに蠱惑的な微笑と映るかもしれない。
「面白いことになってきましたね。本当に、面白い」
　誰に告げるともなく呟くと、彼女はやがて、小走りに日曜の校舎内へと消えていく。人の少ない校内に、靴音がぱたんぱたんとこだました。
　蝋燭のように白い空、その陰に浮かぶのは、ふやけた半熟卵のような太陽の輪郭のみだった。

　時刻はもうじき、午前11時7分となる。

　FEAR THE FORCE：変異-METAMORPHOSE

　

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