鴨川の　雪にはじけて　シャチしぶき｜リアクション

鴨川の　雪にはじけて　シャチしぶき

■かもんかもしー
　鴨川シーランドは千葉県鴨川市きっての観光スポットである。
　夏休みが最も賑わう場所とはいえ、冬場もそれなりに人気があるようで入場ゲート前には行列ができていた。
「割引チケットの効果かな。早めに来て正解だったかも」
　列の中からぴょこんと顔を出す入江みつび。
　昔は行列つったらぼーっと立ってるか文庫本を消費するかしかなかったものだが、最近はスマートホンをいじってるだけで軽く一時間は過ぎるものである。行列が苦にならないっていい時代だなーとか思ったか思わないか、行列を退屈させないためのパネルに目をやってみる。
　園内で展示されている魚やほ乳類の写真である。
「海に潜れば沢山お魚は見るけど、この辺の海じゃ見られない子が沢山いるのね。熱帯魚なんてそれこそだし……」
　そんな彼女とばまた別に。
　行列から外れて誰かとの待ち合わせをする八神修がいた。
　はねるシャチをかたどった像の前で、腕時計を見下ろしている。
　ふと顔を上げると、見知った顔が走ってくるのが見えた。
　ネコさんの鞄をさげた、友達の恵御納夏朝である。
　ちょっぴりたった寝癖を手でぎゅっと押さえつつ、修の前で立ち止まる。
「お、おまたせ……」
　息を切らせる彼女に、修は微笑んだ。
「今来たところだよ」

　行列のずっと先では、チケットをきってもらった羽生碧南が園内へ入っていた。
　ゲートを潜った先はまさにシーワールドといった具合で、広々としたウッドデッキ風のヤードから海を一望できた。
　手すりの先まで言ってみれば、広々とした湾が出迎えてくれる。なかなかのパノラマである。
　テスト勉強から解放されたついでにと来てみたが、思いの外開放感のある場所のようだ。
「水族館っていうより、テーマパークなのね……」
　ふと見れば、『二足歩行するシャチ』みたいなへんてこな着ぐるみマスコットが子供と一緒に写真撮影をしていた。
　完全にテーマパークである。っていうかなんだあのシャチ。
　一方で、園内の様子に別の形で関心するものもあった。
　屋敷野梢はゲートをくぐってすぐにあるアクアリウムという看板に着目した。
　明るくて開放的な野外エリアとは打って変わって、屋内の展示スペースはしっかりと暗い。青白い間接照明と、まるで海中を漂うかのようなゆったりとした静かな空気。
　しかし開放感だけはそのまま残したようで、見事な水槽が梢を出迎えてくれた。
　入る生物を身長に選んだであろう水槽のチョイスもさることながら、梢が見入ったのは湾曲した巨大水槽である。
　自分を中心にやや球形に湾曲したガラスの先に、無数の魚たちが泳いでる。
　側面や上面は勿論、斜め下からも観察ができた。
　生物観察好きの梢にとってはなかなかにうっとりできるスポットである。
　ふと見ると、この水槽の前に寝袋やクッションを引いて眠るナイトツアーなるものが夏場にはあるそうで。
「これは、なかなかにそそりますねえ……」
　気合いの入りっぷりが波の水族館の比ではない。梢は、今日はめいっぱい楽しめそうだと頬を緩めた。

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