みんなで楽しいひなまつり！｜リアクション

みんなで楽しいひなまつり！

　お腹を空かせた鬼河内萌は、楼門前の配布所でトレードマークのポニーテールを揺らし言った。
「甘酒とひなあられを下さいな♪　あ、あと桃の花も～！」

　巫女さんは笑顔で萌に甘酒とひなあられを振る舞ってくれる。桃の花はその少し離れた所で配っているらしい。甘酒を受け取りながら不思議に思った萌は巫女さんに訊いてみた。
「雛祭りでいただくのは『甘酒』ではなく『白酒』だよね？」
　その言葉に巫女さんの目がキュピーンと光った。
「確かにそうよ。ここではみんなが飲めるように甘酒。けれど希望するのんべ……大人には実は奥で白酒も振る舞っているとかいないとか」
　何だか都市伝説のような事を言い、巫女さんは笑った。
「あなたはどうやら未成年みたいだから……大きくなったらチャレンジしてね♪」
　どうやら大人の世界は奥が深そうだ。
（ま、貰えるのなら何でも良いか☆）
　萌はこくりと温かい甘酒を飲んだ。

　ひなあられをポリポリつまみ、美味しい甘酒で暖を取る。そして桃の花も無事貰った萌は、ご機嫌で境内を散策する。すると人混みの中に見知った大好きな顔を発見し、萌は陽気に声をかけた。
「ユウく～ん！」
「お、鬼河内じゃん」
　人混みの中、野菜原ユウがニッと笑いながら振り返った。

「なになに、ユウくん１人なの～？」
「おう。屋台でも見ようかと思ってさ」
「ふ～ん、そうなんだ。おっかし～☆」
　萌はケタケタと笑う。その様子にユウの目が不審そうに細められた。
「おまえ、酔ってんの？」
「甘酒飲んだだけだよ～。白酒は飲んでないよ～。だってボクいい子だもん！」
　エヘンと薄い胸を張っていばる萌。その頬はほんのりピンク色だ。どうやら空きっ腹に甘酒を流し込んだ萌は、そもそも酒にひどく弱いのだろうかほろ酔い気味になってしまったらしい。
「……いい子は甘酒で酔うんだな……」
　ご機嫌の萌の前でユウは呟いた。

　萌曰く「雛祭りは道連れ！」という事で、ユウと萌は一緒に境内を見て回る。そして社務所にある『ながしびな』ののぼりを目にした２人。面白そうだとやって見る事にした。
　巫女さんから流し雛をＧＥＴして、お願い事を書く為ペンのある机まで来た２人。物珍しそうに薄桃色の紙を見ているユウに背を向け、萌は自分の紙にこっそりとお願い事を書いた。そしてそれを見ながら小さく呟く。
「女の子の日だし、こういう願いでも良いよね？」
　紙には『胸が大きくなりますように』との文字。そう、どうもおっぱい星人らしいユウ。そんな彼に恋心を抱くちっぱい女子萌の、切なる願いなのだ。萌は願い事を書いた紙をその板のような胸にそっと抱きしめると、ユウに見られないようにポケットに仕舞う。そして笹舟を作り、ユウの方を元気に振り向いた。
「さあ！　流しに行こう、ユウくん☆」

　そして笹舟を流しに２人は猫又川にやって来た。
　たくさんの笹舟が流れる中、それぞれの笹舟を流す２人。それは何だか叙情的な雰囲気だ。願いを乗せた笹舟を感慨深げに見送り、ふと視線を合わす２人。ユウがガラにもなくしゃがんでいる萌に手を差し出す。ロマンチックに萌はその手を……取れなかった。
「あ、あ、あら～？？」
　ふらふら……バッシャ～ン！！
　まだ甘酒（？）の影響が残っていたのだろうか、手を取り損なった萌は見事に川に落ちてしまったのだ。
　いくら運動が得意な萌でも、３月上旬の冷たい水には勝てない。流されそうになったのを、慌てて川に飛び込んだユウに何とか助けられた。
「おい！　大丈夫かよ？！」
　自分も濡れながらも萌に呼びかけるユウ。萌はうっすらと瞳を開けた。
「ボク、『流し雛』になれたのかな……」
「なんじゃそりゃ！！」
　思わずツッコむユウ。どこまでもトラブルメーカーの２人は、その後クシュン！　と同時に仲良くくしゃみをした。