みんなで楽しいひなまつり！｜リアクション

みんなで楽しいひなまつり！

　水上桜の家は、桜の寝子島高校合格決定後から、非常にバタバタしていた。
　本来なら彼女の入学準備くらいで済む話なのだが……何と彼女の父親の海外赴任が決まり、水上家は桜を残し、現地に引っ越す事になったのである。
　栄転で喜ばしい事とはいえ、桜の桜花寮への入寮手続き、引っ越しの準備などが加わり、水上家は慌ただしい雰囲気に包まれていたのである。

　そんな日々の中、水上家はひなまつりを迎えた。
（さすがに今日は少しゆっくりしようかしら……）
　段ボール箱が少しずつ増えていく家の中で、桜はふうと息をつく。平日は学校と入寮準備の二足のわらじなので、休日は本当に貴重なのだ。
（さすがに引っ越し準備のさなかに雛人形をだすわけにもいかないだろうし）
　桜の下は弟なので、水上家では娘は桜のみだ。毎年家族はひなまつりを祝ってくれていたが、さすがに今年はないだろうと桜は思っていたのだが。
「……お母さん？」
　桜はリビングで大きな箱をごそごそやっている母に声をかける。
「ジャ～ン！」
　満面の笑みで彼女は箱から何かを取りだした。その手に載せられていたのは、美しいお雛様だった。

　桜の家の雛人形は三人官女と五人囃子もおり、賑やかだ。
　実はこの雛人形は、桜が生まれた時に母親の実家から送られてきたもので、元々母親が使っていたものなのだ。
　年代物ではあるが、手入れが行き届いているため余り古さは感じられない。雛人形達はいつも変わらぬ笑顔で、母と娘の成長を見守ってきたのだ。
　ご機嫌で雛人形の薄紙をはずす母。それを受け取り、羽箒をかけ、小物をつけてやってから桜は人形を雛壇に飾る。
　それは毎年の光景。桃の花の時期の、変わらぬ光景だ。
　母が嬉しそうに五人囃子を飾っている。その姿を見ながら、桜はぼんやりと思っていた。
　自分もいつかは結婚して、娘を産んだら、この雛人形を娘の為に飾ったりするのだろうか。
　母がこの雛人形の事を話してくれた時。懐かしそうな、愛おしそうな表情をしていた。
　自分も娘ができた時、同じ表情をするのだろうか。あの、幸せそうな顔をするのだろうか。
「……どうしたの？」
　動きを止めてしまった桜に、母が不思議そうに声をかけた。
「ううん、なんでもない」
　桜はちょっと笑って首を振る。……それは、まだまだきっと、遠い先の話。

　雛人形は、無事水上家のリビングに飾られた。
「う～ん、やっぱりひなまつりはこうでないとね」
　母が満足そうに言う。桜が小さく呟いた。
「この家ともしばらくお別れね……」
　小さい時から見てきたこの光景ももう見納めだ。やがて家族は海外に行き、自分は桜花寮に入り、貸しに出すこの家は知らない誰かが住む。
　そのまま黙ってしまった桜の肩を、母がポンと叩いた。
「大丈夫よ。この家はなくならないし、家族が会えないって訳じゃない。それに、新しい出会いも待ってるわ、絶対」
　明るい母の笑みに、桜はしっかりと頷いた。そうだ、これから私も、高校生になるんだ。寮での生活、新しい友人達。たくさんの未来が待っている。
「このお雛様はどうするの？」
　ふと桜は母に訊いた。自分がいないのに海外に持っていく訳もないし、桜花寮に持ち込むには大きすぎると思ったのだ。
「そうねぇ。取りあえずまたおじいちゃん達の家に置いといてもらおうかしら」
「そうだね。それがいいかもしれない」
　母に軽く頷くと、桜は雛人形に視線を戻した。

　この家で最後のひなまつり。
　今までありがとう。
　次に会う時にも、きっと笑顔で会うからね。

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あとがき

担当マスター：ＫＡＮ
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ＫＡＮです。
ご参加の皆様、ありがとうございました！

寝子島でのひなまつり、いかがだったでしょうか？
男の子も女の子も楽しんで頂けていたら嬉しいです。
（ちなみに今回あえて男雛、女雛とせずに「お内裏様」「お雛様」と致しました。この言い方の方が柔らかくて好きなのです……ほんと、あの歌は心が温まりますよね！）

桃の節句。春の訪れ。
残り少ない寝子島の３月を、めいいっぱい楽しんで下さいね。

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