みんなで楽しいひなまつり！｜リアクション

みんなで楽しいひなまつり！

「神社がにぎやかだなぁ……」
　お散歩をしていた遠野まほろは、楽しそうに緩やかな参道を上っていく人々を見て、呟いた。
　どうして賑やかなのかは想像がついた。ぼんぼり型の提灯、あちこちに立てられたのぼり。そう、今日は３月３日のひなまつりだ。それのお祭りがあるのだろう。
　まほろの家でもまほろのおばあちゃん達が雛人形を飾ってくれた。綺麗な着物を着た可愛らしい雛人形。１年に１度しか出会えないけど、ひなまつりはとても嬉しいものだ。
（神社はどんな催しをしてるのかな？　ちょっと寄ってみよう）
　人々の笑顔と、仄かな桃の香りに誘われて、まほろは参道を歩き出した。

　神社の境内では、参道にずらりと屋台が立ち並び、楼門近くでは、甘酒などが振る舞われていた。
　お祭りの賑やかな雰囲気をまったりゆったりと楽しみながら、折角だからとまほろはひなあられの振る舞いを受けた。
　薄い和紙の包みをそっと開けると、色とりどりのひなあられ。まほろはそれをつまむと、口に運んだ。
「ん……、おいしい」
　砂糖がまぶされた色鮮やかで可愛らしいお菓子。関西では甘くはなく塩か醤油味なのだが、まほろはどちらも好きだった。
　『ひな』は小さいものを呼ぶ宮中の言葉。菓子の白色は雪、緑は木々の芽、桃色は命。ひなあられを見ていると、昔の人々が心からひなまつりを楽しむ姿が浮かんでくる。
（今も昔も変わらないね）
　賑わう境内で、まほろはふふと微笑んだ。

　ひなあられを食べ終えたまほろは、今度は流し雛をしようと社務所に行き、巫女さんから紙と笹を受け取った。
　どうやらこの薄桃色の紙に、お願い事を書いて川に流すらしい。まほろの頭にはすぐに同居する祖父母の顔が思い浮かんだ。
（やっぱりおじいちゃんやおばあちゃんの健康が１番かな？）
　自分の事ではなく祖父母の事を願うあたりが優しいまほろらしい。願い事を決めたまほろは早速紙に書こうとしたが、ハタとその手を止めた。
「んー……？　この場合は家内安全なのかな。それとも健康長寿？」
　むむ、とまほろは考える。そしてふと思いついた。
「……とりあえず家族が健康で過ごせますようにでいいかな……？」
　それなら祖父母だけではなく、同居している従兄や、離れて暮らす両親も入る。名案が思い浮かんだまほろはにこりと微笑むと紙にお願い事を書き込んだ。

「……これでよし、と」
　ペンを置いてのんびりと顔を上げたまほろに、横から声がかけられた。

「遠野さんもお願い事書いたの？」
「あ……夏朝ちゃん！」
　振り向いたまほろの前で、打ち掛け風の上着を羽織った夏朝がにこりと笑った。