みんなで楽しいひなまつり！｜リアクション

みんなで楽しいひなまつり！

　修達は夏朝達より一足先に猫又川に着いていた。

「流し雛は雛祭りの原点だよなぁ。元々は厄払いだけど、お願い事ってのもいいよな」
　笹舟に乗った自分の雛を見ながら修が言う。うんうんと美咲紀が頷いた。
「大丈夫なのですよ。寝子島神社の神様は太っ腹なのです！　私は『毎日楽しく、笑顔で』と書きました！」
　そして美咲紀はひょいと修の手元を覗いた。
「シュー君はお願い事なんて書いたのですか？」
「俺か？　俺はシンプルに『大願成就』だ」
　修がほら、と紙を美咲紀に見せる。おお、と美咲紀の目が丸くなった。
「壮大な願い事ですね！」
「だろう。この一言で全部叶えてしまおうってね」
　笑いながら修は言ったが、真剣な気持ちで思っていた。
（全部、叶えたいんだ。勉強も……恋も……）
　それは、切なる願い。苦しく熱い情熱をそっと心に仕舞うと、修はあおいの方を見た。
「あおいは何て書いたんだ？」
「私はねー、ほら！」
　あおいが見せてくれた紙には『料理がじょうずになりたーい！』の文字。修と美咲紀は顔を見合わせこの可愛らしい願い事に微笑む。そして口々に「大丈夫だよ」とあおいを励ました。
　と、そこに夏朝の声がした。
「八神くーん」
　見れば夏朝がまほろと一緒に河原を歩いてくる。５人は無事に合流を果たした。

「……願い事は書けたか？　恵御納」
　皆で笹舟を流そうとわいわい話す中、修は夏朝にそっと訊いた。静かに頷く夏朝に、修は微笑んだ。
「そっか。……かなうと良いな」
「うん。……ありがとう、八神君」
　何も言わなくても分かる。２人は笑い合った。そこに美咲紀の元気な声がした。
「さあさあ、笹舟を流すのです！　進水式なのですよー」

　５人は並んで、一斉に笹舟を流した。

　雛を見られないようにそっと流した夏朝は、笹舟を見つめながら願った。
（皆の願いも、僕の願いも、叶いますように）
　美咲紀も笑顔で笹舟を見送る。
（楽しく笑って過ごせるのが１番なのです。そんな１年をありがとう……そしてもう１年お願いしますなのです、神様！）
　あおいとまほろは川を流れるたくさんの笹舟を見ながら楽しそうに話している。

　修はそんな４人をファインダー越しに見つめ、シャッターを切る。そして川面にカメラを向け、流れていく小さな笹舟達をその姿が消えるまで撮り続けながら祈った。
（皆の厄が流れて、願いが叶い幸せになれると良いな……）
　大事な友人達と過ごすひなまつり。そしてそこには大好きなあおいもいて。
（有難う）
　川面を見つめ、修は誰にともなく感謝をした。