期末試験をクリアせよ！！｜リアクション

期末試験をクリアせよ！！

　　　５

　チャイムが鳴り終わり、巧はばったりと机にうつ伏した。
「東門くん、大丈夫ですか？」
　美咲紀がくすくす笑いながら、隣に座った。
「駄目……死ぬ……」
「まだ二時間ありますよ？」
「後は頼んだ……うう……」
「光くんは、どうするですか」
　巧はちょっと顔を上げた。
「八神くんと志波先輩が行ってるでしょ」
　美咲紀は、「後」のことを問うたのだが、巧は「今」と勘違いしたらしい。それを指摘せず、美咲紀は相槌を打った。
「あの二人なら、そうですね……」

「戻らなくていいんですか？　チャイム鳴りましたよ」
　荒井景貴は足元にしゃがみ込む武道と修に尋ねた。
「すぐ戻りますよ。――ベロベロバー！　いい子にしてたー？」
「もう少し、会長としての威厳が……」
「そんな可愛いぬいぐるみを持って言っても、説得力ないぞ副会長」
　クレーンゲームで取ったような小さなぬいぐるみ――ちなみに美咲紀から借りた――を手にした修はむっとして武道を睨んだ。
　ここは二年生の階に、空き教室だ。牛瀬に頼んで用意してもらった。
　割れそうなものは極力排除し、カーペットを敷いた。ベビーシッターには、景貴がボランティアを申し出た。
　昨日の夜遅く、洋菓子店「Raton」を閉めた景貴は初めて巧と会った。
「いやあ俺がね、お店でうぬぬぬぬと困っていたら景貴さんが話を聞いてくれて、そしたら午前中だけなら、ってベビーシッターを引き受けてくれたわけ。理事長にはもう、話を通してあるから」
「Raton」は寝子高購買部にプリンを卸しており、全くの部外者でもない。また、もれいび関連の事件には慣れている。他の誰か――たとえば小百合――よりはいいだろうと判断されたのだ。
　初対面の景貴に恥ずかしがっていた光も、絵本やお菓子への好奇心が勝ったらしく、しばらくは大人しくしていた。
　そう、しばらくは。
　三十分もすると、光は絵本に飽きた。カルタは字が読めないので、あまり興味を持ってくれなかった。奥の手の「とろふわプリン」を出すか、と思っているところで武道が、続いて修がやってきたのだった。
「まだ一限目、終わってないですよね？　確か数学ですよね？」
「猛ダッシュで終わらせたんです」
　武道は誇らしげにＶサインを見せた。全力で問題を解き、トイレに行くふりをして出てきたのだという。修も同様だ。
「バレたら、どうするんですか？」
「そういう時のために、牛瀬先生を味方にしてあるんです」
「理事長もね」
　無論、推奨されることではないが、バレてもどうにか誤魔化せるように手は打ってある。
「……正直、来てくれてよかったです」
　ホッとして、景貴は笑顔を見せた。
「任せきりにするほど、無責任じゃないですよ」
「そろそろ戻らないといけないけど、またすぐ来ます」
　休み時間が終わる直前、二人は各教室へ帰っていった。光は、寂しそうだった。
「さて」
　景貴は腕まくりをした。
「何して遊ぶ？　それとも、プリン食べる？」

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