「……大きくなったわね」
寝子島高校一年四組の
椎井 莉鳥は、しみじみと呟きました。彼女の目の前には、
光(ひかる)と名付けられた赤ん坊がいます。――いえ、赤ん坊と幼児の中間と言った方がいいかもしれません。
「一歳ぐらいですかね?」
椿 美咲紀が自分の腕を使って、光の身長を測りました。七十センチ以上はあるようです。多分、と
東門 巧は答えました。
「……やっぱり変、だよね?」
「普通の子じゃないでしょうね」
光はある日突然、巧の部屋の前に現れた子です。下宿の大家である
城之内 小百合(じょうのうち・さゆり)にも調べてもらっていますが、身元は分かっていません。
「学校にも行ってないのよね?」
と莉鳥は光をあやしながら、尋ねました。
「行ってない。行けっこないよ、こいつ置いて。重いし」
巧は口を尖らせましたが、元々、引き籠りがちだっただけに、外出できないことは苦でないようです。
「泣いてないですか?」
「たまに泣く。お腹空いたときとか、うんちとか、僕がちょっとトイレ行ったりお風呂行ったりしたときとか」
美咲紀と莉鳥は部屋を見回しました。そういえば、巧の部屋の窓は割れ、代わりに昼間だというのに雨戸を閉めきったままです。コップのような割れやすい物は排除され、電球はいちいち取り替えていると言います。
というのも、光が泣き出すと周囲の物が割れるという現象が起きるからです。ろっこんなのか、光がもれいびなのか、それも分かりません。
「何だか気が強くなったみたいでさあ」
巧はちらり、莉鳥と美咲紀を見ました。二人の影響かも、と思っても口には出来ません。
「まあでも、外に出ないのは正解かもしれません」
きょとんとする巧に、ああ、と美咲紀は頷きました。
「知らないんですね。最近、水着にマントの女の子が出没してるんですよ」
「なにそれ? 変態?」
思わず巧は吹き出しました。
近頃、シーサイドタウンを中心に現れるその女性は、男性を掴まえては名前と顔を確認しているらしいのです。生徒にも被害――と言っていいか――が及び、学校側は注意を呼び掛けています。しかし、女の子は美人らしく、中には「声をかけられた」ことを自慢する者もいました。
「誰か探してるんじゃないかしら?」
「かも。まあ大体、背の高い人ばっかりらしいので、東門くんは大丈夫でしょうけどねー」
「……さらりと傷ついたよ?」
「その女性、剣みたいのも持っているようね。使ってはいないみたいだけど」
「それ、銃刀法違反じゃないの? おまわりさんは?」
「逃げ足が速いんですよー」
「旧市街へ近付いているようだから、光を連れて出歩くのは気を付けて」
「うん。……でもこいつ最近、外に行きたがるんだよなあ」
巧は、にこにこと機嫌の良さそうな光を見て、ため息をつきました。
こんにちは。泉 楽です。
今回のシナリオは「降ってきた赤ん坊」の続きとなります。
が、別に前回に参加していなくても全く問題ないため、お気軽にご参加ください。
赤ん坊と巧に関わるもよし、美少女に関わるもよし、他のことをするもよし。自由度は割と高めです。
皆様のご参加をお待ちしております。
NPC
東門 巧(とうもん・たくみ)
光(ひかる)
赤ん坊。成長が速く、今の外見年齢は一歳ほど。巧と離れると泣き出し、泣くと周囲の物が壊れる。
城之内 小百合(じょうのうち・さゆり)
59歳。
巧の下宿のおばさん。家事が得意で面倒見たがり。派手なフリフリのワンピースをいつも着ている。巧曰く「古風」。
現在は赤ん坊の世話で、念願のイングリッシュガーデン作りが止まっている。
女の子
シーサイドを中心に出没する。目撃証言によれば「水着にマント、剣のようなものを持っている。可愛い」
背の高い男性に声をかけており、誰かを探している模様。