授業風景～１年４組の場合～｜リアクション

授業風景～１年４組の場合～

「五月チャン五月チャン」

こそこそと身をかがめて席の間を移動したセレッソは薄野五月の袖を小さく引っ張った。

「セレッソさん、どうかされましたか？」
「えへへー、表現方法って難しいのネー。なんとかみたい、っていうのはわかるノヨ」
「御薗井ちゃんもわかんないですか？よかったら一緒にやりませんかー？」

五月とセレッソのやり取りを聞いていた千代島白雨が隣から覗きこむ。
五月と白雨の机をくっつけて、真ん中にセレッソが入った。

「比喩っていうのは……えーっと確か、直喩、暗喩、寓喩、引喩。声喩は擬態法でしたっけ？」
「……いろいろなのネ。擬態法は比喩とは別物ナノ？」
「そうね、雪がしんしんと降り積もる、とかの“しんしん”の部分……オノマトペというやつよ」
「２人とも詳しいノネー」

五月と白雨の連係プレーで３人のプリントが埋められていく。

「えっとーお月さまが冷たいだなんて……まるで宇宙に行ったみたいナノ！美和チャンせんせーもそんな気分ナノ？」
「ほんの少しのいたずらに気付いてほしいっていうのはすこーしだけ解る気もするんですよね……。絶対に一枚も二枚も敵わない相手なら、特に」
「難しいですね。久保田先生の彼も、月のように一時でも自分だけのものにできたら苦労はしないんでしょうね」

女子３人の間に一瞬しんみりとした空気が流れた。

「このプリント……授業の終わりに回収されますよね」

ふと、五月が呟く。

「たぶんそうナノー。お名前書く場所があるし」
「じゃあ、比喩を使った久保田先生へのメッセージ、書いてみない？」
「いいですね！それで元気になってくれたら嬉しいです」

五月の提案に２人はそれぞれにペンを走らせる。セレッソは時折表現方法について聞きながら、頑張って書き上げた。