授業風景～１年４組の場合～｜リアクション

授業風景～１年４組の場合～

「一大事アルー！！！」

とある五月も中頃に差し掛かった、とても気持ちのいい午後の日だった。
開け放した窓から穏やかな風が入り込む、そこは１年４組の教室。
風に流されて入り込んだ花弁が、叫び声にも似た一声の衝撃に押されて窓の外へ落ちていった。

「みっちゃん先生、告白されたアルか！？それは……夢の中とか、ディスプレイの中のできごとじゃないアルね！？」

少々失礼な発言を交えつつも、驚きを隠せない様子の畑中華菜子。
思わず立ち上がると教卓に突っ伏したままの久保田先生に詰め寄った。

「珍しいアル、めでたいアル！今日は雪が降るアルか！？それとも槍アルかぁあああ！！？」

がったんがったん。
教卓ごと久保田先生を揺さぶるため、教卓前の座席に座る緋紅朱赫乃が慌てて自分の机を抑えていた。

「あ、わ、わわっ」

教科書やノートを抑えながら、上目づかいで２人のやりとりを見つめる。
どうやら今日の授業は、自分の周りが騒がしくなりそうだと直感的に悟った赫乃だった。

久保田先生の様子が気になるのか、ちらちらと教卓の方へ視線を向ける生徒もいれば、全く興味がなさそうな生徒もいる。
華奈子の大きな声に一度は反応したものの、あっさりと昼寝の態勢に入った生徒もいた。

「……めんどい」

その一言を置き土産にぱたんと夢の世界に旅立って行ったのは灯斗南。
仮面で顔を隠した状態で「フツウ」を壊す存在を断罪する“仮面の始末人”である。
どうやら昨夜も遅い時間に活動していたようで、疲れ切った体に午後の陽気は心地よすぎた。
数分もしないうちに落ち着いた寝息を立てはじめる。普段のやる気のなさそうな表情とは一変、可愛らしい寝顔だった。
そんな斗南の近くでは維都月茉菜が目をキラキラさせながらノートに落書きを施していた。

「うふ、ふふふふ……これが世に言う“普通の授業”！家庭教師時代には味わえなかったこれがスリル・ショック・サスペンス！なんだね！」

一般的な教室での授業をほとんど受けたことのない茉菜。ここぞとばかりに落書きを進める。
線が少しゆるゆるとしたファンシーなうさぎを大量生産。たまに服を着せてみたり、飴を持たせてみたり。
あの調子の久保田先生が咎めることはないとわかっていつつも、ちらりと先生の動向を伺ってはまたペンをノートに走らせていた。
一方、恵御納夏朝は教科書とプリントを見比べつつ、綺麗な字で書きこみを進めていく。
と言っても、大まかな部分しか見つけられなかったのか、
『あの月のように(直喩) 天(隠喩) 鏡(隠喩)』
とだけ書くと、うーん、と首を傾げてからプリントを裏返した。

「それにしても、この詩……。アピールしてみたり、姿を消してみたり……優しかったり背中を向けたり……、爪を立てたり、いたずらしたり……なんだか、猫さんみたい……！」

書かれた詩を猫に置き換えて表情を輝かせる。
夏朝の脳内には青い月明かりに照らされて歩く猫の絵が浮かぶ。
ほわーっと想像に酔いしれると、その素敵な情景を、プリントの裏に描きはじめた。
一心不乱に絵を描いている夏朝を横目に１年４組の男の娘、八雲陵平も同じように空いたスペースに落書きをしていく。
繊細なラインで空を舞う鳥、花にとまる蝶。お昼寝をする白猫と少し大柄な黒猫は、いつぞや一緒に走った２人を少しだけイメージして。
プリントの裏に所狭しと動植物の絵が描かれていった。

このページにイラストを設定する