授業風景～１年４組の場合～｜リアクション

授業風景～１年４組の場合～

「みわちゃん先生に男ねぇ……」

民谷鋭二は教科書をしまうと、愛用している民話ノートと寝子島マップのコピーを取り出し、聞き出した伝承地域にチェックを入れ始めた。

「ま、先生の方はなんかの間違いだろ。そんなことより、次の休日は九夜山周辺だな。これは決定、と」

先週旧市街へ出かけたときにおじいさんから聞き出した民話の多くは九夜山とその地域が発祥のものが多かった。
寝子島マップの九夜山のあたりにはいくつものチェックがつけられている。あらかた固まっているチェックに大きく括りをつけると、散策に行く予定の日付を小さく書きたした。

「あとは、そうそう、お孫さんからは何聞いたんだっけ。……“授業中に伸びる机の下の腕”、か。机の下なんて死角だもんなー」

ぼそりと呟いて、にやりと笑う。教室内を見渡すと、お昼寝中の生徒がちらほら見受けられる。
そのうちの１人にターゲットを絞ると、鋭二は片目をそっと閉じた。

窓際で真っ先に眠りに落ちた斗南の脳内では、何とも和やかな夢が繰り広げられていた。
萌黄色の芝生の上に寝転ぶ斗南の周りには多様な動物たちが。心地よさそうに丸まっている猫たちに、毛並みのいい大型犬。
お尻の可愛い鹿の親子にもこもこのアルパカ。小動物が斗南の髪や服を引っ張って遊び、小鳥たちは小さく囀っていた。
彼は嫌悪する“フツウを壊す存在”がいない平和な夢の中で、ひと時の安らぎを体感していた。
しかしその安らぎも長くは続かない。
足元から不穏な影が近づく。ごろごろと何かが転がるような地響きがする。
やがて斗南の前に現れたのは、斗南の身長の倍はあろうかと言える巨大なキャベツ。
森の中に逃げていく動物たちを守るようにキャベツと対峙するが、伸びてきた触手に足を絡め捕られてしまい……。

「うおっ！？」

寝ているところ急に足を引っ張られて飛び起きる。
もちろん夢と現実の区別がついていないため、頬杖ついているときにがくっとなってしまうようなものだろうと納得し、斗南は再び睡眠の態勢に入った。

「なんて夢だ……」

そんな斗南の様子を観察しながら、鋭二は口角をさらに引き上げた。斗南の足を引っ張ったのは他の誰でもない、鋭二のろっこん「巷談写」によるものだったのだ。

「いつもダルそうな灯が、なかなかいい反応をしてくれたな。さて、次は誰を狙おうか」

人知れず犯行予告を呟きながら、鋭二は次のターゲットの選別を開始した。
その後数分間隔で寝ていた生徒が飛び起きたのは、言うまでもない。

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