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- 00月00日生 00歳
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スポットライトを脇役に！
神嶋 征一郎は鼻腔を刺す薬品の匂いに眉根をひそめようとした。その瞬間、刺すような痛みが全身に襲いかかる。痛みを和らげようにも、手足の自由は利かない。現状を確かめようにも、視界はやけに狭く、首を自由に動かすこともできない。天井の白さとベッドの硬さから、ここが病室であることを予想することしかできなかった。途方に暮れる征一郎のそばに、足音が近づいてくる。わずかに顔を傾けて、足音の主を待つ。視界に入り込んだのは、神嶋 征一郎自身の姿だ。
（一体どういうことだ……？）
そんな疑問が征一郎の胸を占めたはずだった。ところが征一郎を塗りつぶしたのは、仄暗い怒りの感情だ。
（なんだ……？ なぜ自分はこんなに苛立っている？）
疑問や戸惑いを感じても、すぐにまた怒りに染まる。そして征一郎はわけもわからないまま、目の前に立つ征一郎を睨みつけた。目の前の『彼』は、いつになく顔色が悪く、あからさまに怯えている。その碧眼に映り込んだ今の己の姿を見て、頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
「俺のこと、忘れたとは言わせねぇぞ」
寝たきりの男がその言葉を放った瞬間、鏡の世界と入れ替わったかのように、征一郎の感覚は、本来の身体へと戻る。するとより強烈に、男の姿は征一郎の視界に飛び込んできた。包帯だらけの身体。潰れた片目。そして手術跡の残る歪な腕。忘れられるはずがなかった。彼は、征一郎の才能に激しく嫉妬し、征一郎の立ち振舞いを恐ろしく嫌った。そして行き過ぎた悪感情を爆発させた末に、征一郎のヴァイオリンをへし折った加害者であり、征一郎の報復を受けた被害者でもある男だ。
思わず征一郎は後ずさった。その瞬間ようやく、彼だけでなく、彼と共に同じ病室で横たわる男たちが征一郎を同様に睨みつけていることに気がついた。
「随分と高校生活楽しそうじゃん？ 俺に言いてェ事は？」
何か言い返そうと口を開くが、断片的に息が漏れるばかりで言葉にはならない。
「おいおい、人と話すときはちゃんと、顔見て話そうぜ」
煽られても、顔を上げることもできなかった。過去に彼らに神経を逆撫でしたはずのプライドも、今はまるで支えにはならない。
「合わせる顔ねーよな。何いっちょ前にのうのうと生きてんだか」
「お前の所為で俺達こんな可哀想な目にあってるんだぜ？ もう一生歩けない人生滅茶苦茶！ お前もこっち側の癖に一人助かろうとしてんなよ」
男たちは口々に、征一郎を罵る。
「神嶋さァ、なんでお前がそこにいるの？」
「お前、早く――」
とうとう耐えきれず、征一郎はその場にしゃがみこみ、耳を塞いだ。しかしいくら遮断しようとしても、悪意、憎悪、嫉妬、憤怒――負の感情は、泥のように征一郎にまとわりつき、真っ黒な棘を突き刺す。美しくも甘美な悪魔の狂想曲が、耳の裏で鳴り続ける。
（自分は悪くねぇ悪くねぇ悪くねぇ……！）
必死に言い聞かせるが、征一郎は血が通わなくなるほど拳を強く握りしめ、手の平には切り揃えられた爪が食い込んでいた。
（経緯はどうあれ彼らの人生を奪ったのは事実）
どれほど言い聞かせようとしたところで、心の底からそう思えない限り、慰めさえ棘に変わる。
（どこで間違えた……？）
答えを求めるように、征一郎はゆっくりと目を開ける。恐る恐る顔を上げると、そこには征一郎を睨みつけるものはいない。病室は恐ろしいほどの静寂に包まれ、彼らは管に繋がれ、眠っている。征一郎は立ち上がり、彼らの姿をじっと見下ろす。頬はこけ、筋肉は削ぎ落ち、とても同年代の青年には見えない。しかしわずかに髭は伸び、彼らの生を物語っている。
（否、最初から……）
答えを見出した途端、征一郎は現実に引き戻された。征一郎は込み上げる嘔吐感を堪えながら、覚束ない足取りで、歩き始めた。しかしひどい精神状態でまともに歩けるはずもなく、間もなく征一郎はドアにもたれかかるようにして倒れ込む。崩れ落ちないようにどうにか踏ん張る征一郎の視界に飛び込んできたのは、夕日を浴びて穏やかに微笑む御庭 凪糸だった。
「どうした、神嶋ちゃん？ いつにもまして、ご機嫌斜めで」
凪糸は征一郎の尋常ではない様子にもひるまない。それどころか、小首を傾げると自然と征一郎のそばに近づいてきて、征一郎の眉間を人差し指でツンと小突いた。
「御庭……自分に構うな今すぐ消えろ」
（自分がいかに人を傷つける存在か忘れていた、甘えていた。こんな扱いを受けていい存在じゃない……）
「おー怖い怖い」
それでも凪糸は気にした風もなく、軽口を叩きながら、征一郎の背中に優しく、軽やかに触れた。手の平の熱がふわりと背中に溶けていく。
（……馬鹿が）
ささやかな人肌は、あまりに優しい。征一郎は、熱くなる目頭に気づかれぬよう、そっと顔を伏せた。
（一体どういうことだ……？）
そんな疑問が征一郎の胸を占めたはずだった。ところが征一郎を塗りつぶしたのは、仄暗い怒りの感情だ。
（なんだ……？ なぜ自分はこんなに苛立っている？）
疑問や戸惑いを感じても、すぐにまた怒りに染まる。そして征一郎はわけもわからないまま、目の前に立つ征一郎を睨みつけた。目の前の『彼』は、いつになく顔色が悪く、あからさまに怯えている。その碧眼に映り込んだ今の己の姿を見て、頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
「俺のこと、忘れたとは言わせねぇぞ」
寝たきりの男がその言葉を放った瞬間、鏡の世界と入れ替わったかのように、征一郎の感覚は、本来の身体へと戻る。するとより強烈に、男の姿は征一郎の視界に飛び込んできた。包帯だらけの身体。潰れた片目。そして手術跡の残る歪な腕。忘れられるはずがなかった。彼は、征一郎の才能に激しく嫉妬し、征一郎の立ち振舞いを恐ろしく嫌った。そして行き過ぎた悪感情を爆発させた末に、征一郎のヴァイオリンをへし折った加害者であり、征一郎の報復を受けた被害者でもある男だ。
思わず征一郎は後ずさった。その瞬間ようやく、彼だけでなく、彼と共に同じ病室で横たわる男たちが征一郎を同様に睨みつけていることに気がついた。
「随分と高校生活楽しそうじゃん？ 俺に言いてェ事は？」
何か言い返そうと口を開くが、断片的に息が漏れるばかりで言葉にはならない。
「おいおい、人と話すときはちゃんと、顔見て話そうぜ」
煽られても、顔を上げることもできなかった。過去に彼らに神経を逆撫でしたはずのプライドも、今はまるで支えにはならない。
「合わせる顔ねーよな。何いっちょ前にのうのうと生きてんだか」
「お前の所為で俺達こんな可哀想な目にあってるんだぜ？ もう一生歩けない人生滅茶苦茶！ お前もこっち側の癖に一人助かろうとしてんなよ」
男たちは口々に、征一郎を罵る。
「神嶋さァ、なんでお前がそこにいるの？」
「お前、早く――」
とうとう耐えきれず、征一郎はその場にしゃがみこみ、耳を塞いだ。しかしいくら遮断しようとしても、悪意、憎悪、嫉妬、憤怒――負の感情は、泥のように征一郎にまとわりつき、真っ黒な棘を突き刺す。美しくも甘美な悪魔の狂想曲が、耳の裏で鳴り続ける。
（自分は悪くねぇ悪くねぇ悪くねぇ……！）
必死に言い聞かせるが、征一郎は血が通わなくなるほど拳を強く握りしめ、手の平には切り揃えられた爪が食い込んでいた。
（経緯はどうあれ彼らの人生を奪ったのは事実）
どれほど言い聞かせようとしたところで、心の底からそう思えない限り、慰めさえ棘に変わる。
（どこで間違えた……？）
答えを求めるように、征一郎はゆっくりと目を開ける。恐る恐る顔を上げると、そこには征一郎を睨みつけるものはいない。病室は恐ろしいほどの静寂に包まれ、彼らは管に繋がれ、眠っている。征一郎は立ち上がり、彼らの姿をじっと見下ろす。頬はこけ、筋肉は削ぎ落ち、とても同年代の青年には見えない。しかしわずかに髭は伸び、彼らの生を物語っている。
（否、最初から……）
答えを見出した途端、征一郎は現実に引き戻された。征一郎は込み上げる嘔吐感を堪えながら、覚束ない足取りで、歩き始めた。しかしひどい精神状態でまともに歩けるはずもなく、間もなく征一郎はドアにもたれかかるようにして倒れ込む。崩れ落ちないようにどうにか踏ん張る征一郎の視界に飛び込んできたのは、夕日を浴びて穏やかに微笑む御庭 凪糸だった。
「どうした、神嶋ちゃん？ いつにもまして、ご機嫌斜めで」
凪糸は征一郎の尋常ではない様子にもひるまない。それどころか、小首を傾げると自然と征一郎のそばに近づいてきて、征一郎の眉間を人差し指でツンと小突いた。
「御庭……自分に構うな今すぐ消えろ」
（自分がいかに人を傷つける存在か忘れていた、甘えていた。こんな扱いを受けていい存在じゃない……）
「おー怖い怖い」
それでも凪糸は気にした風もなく、軽口を叩きながら、征一郎の背中に優しく、軽やかに触れた。手の平の熱がふわりと背中に溶けていく。
（……馬鹿が）
ささやかな人肌は、あまりに優しい。征一郎は、熱くなる目頭に気づかれぬよう、そっと顔を伏せた。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2018年10月07日
- 参加申し込みの期限
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- 2018年10月14日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2018年10月14日 11時00分
