スポットライトを脇役に！｜リアクション

スポットライトを脇役に！

　Ame-chanというSNSアカウントの最新投稿は、戦利品の画像に「ガチャ報告」と添えられたシンプルなものだ。

（うわっ！　まただ……！　ガチャ更新から30分もたたずに限定のSSRキャラを引いている……！）

　その投稿に、引間来蔵は釘付けになっていた。目を皿のようにして画像のあらを探した。しかしどこにも怪しい点はない。

（もしかして今なら排出率が良いのか！？　だったら俺も！！）

　今まで課金には手を出してこなかった。どうせ当たらないという諦めがあったからだ。けれど女子高生ができる課金など、せいぜい1000円、2000円程度に違いない。それもいくつもゲームを掛け持ちしているのだから、1作品に掛ける金額が月5000円を超えているはずがない。来蔵は自身の名推理に酔いしれる。

（これは、イケるぞ……！）

　来蔵は余裕を持って3000円課金することに決めた。溜め込んでいた無料配布のガチャ石を合わせると30連続でガチャを引ける程度の資産はある。ホクホクとした気持ちで、彼はガチャを引くボタンをタップした。結果、限定キャラこそ出なかったが、そこそこ人気のあるキャラクターの最高レアを引くことに成功した。

（やっぱり出るんだな。よし、じゃあ今度こそ……）

　その後、ちょっと、あとちょっとと少しずつ課金を繰り返したはてに、とうとう限定キャラクターを引き当てることに成功した。ただし――

（くっ……引くまでに10万円もかかってしまった）

　達成感よりも、疲労感が重く肩に伸し掛かる。少しでも多くの満足感を得るために、自慢報告を上げるためにSNSを開く。すると、さらなる衝撃を受けた。

（ハッ！？　このゲームでもAme-chanがSSRを！　しかも5枚引いて完凸している！？）

　その投稿には山ほどコメントが寄せられ、少女は崇め奉られていた。羨望の思いが鎌首をもたげる。来蔵は本来の目的も忘れ、無心でガチャを回し続けた――だが、300連、回して1枚も引くことができなかった。先程のガチャと合わせて、1日で今月のお給料が使い切ってしまった。それどころか、蓄えにまでも少し手を出してしまった。

（くそ。また出なかった）

　あっという間に、来蔵の貯金は底をつきた。生気のない目で、来蔵は目の前の画面を見据える。ふと目についたのは、カードローンの広告だった。

（そうだ！　借りればまだガチャが回せる！！）

　再び気力を取り戻した来蔵は、さっそくお金を借りて、ホクホクとした気持ちでガチャを引くボタンをタップした。それから3ヶ月後。

「引間来蔵さん。いらっしゃいますよね？　早くドアを開けてください」

　丁寧な口調ではあるが、訪問者は苛立ちを隠そうともしていなかった。

「早く開けないと、大家さんに相談させていただきますよ」

　来蔵は慌ててドアを開け、その勢いのまま土下座をする。

「待ってくれ！　今月中には必ず……！！」
「……借りたお金を返さないのは、泥棒と一緒ですよ？」
「だから、今月中には……」
「今、仕事してないんですよね。存じ上げてます。……やる気はあるみたいなんで、今月中に返せるように、お仕事紹介しますよ」

　来蔵の顔がさっと青ざめる。

（まさか、売られる？　マグロ漁船？　臓器売買！？　い、嫌だーー！！！）

　悲痛な叫びの代わりに、けたたましいアラームの音で、千歳飴楓子は目を覚ました。時刻は深夜2時を過ぎたところ。楓子は、布団にくるまったままポチポチとゲームを開始した。

（……走るか）

　楓子は無言でスマートフォンをタップする。ある程度、イベントを走るための要領を得たところで、楓子は作業の手を止めずに、先程見た夢を思い返していた。

（……あの男は楓子が容易くSSRを手に入れていると勘違いしていたな）

　あれが現実のことだとは、思いたくもない。けれど万が一を否定することはできない。

（……これからはガチャでSSRを引いた時は何連したかできるだけ書いておくか……）

　小さな決意を胸に、楓子は今日のノルマを消化していった。