試験勉強しなくっちゃ！｜リアクション

試験勉強しなくっちゃ！

【翼を抱いて】

　卯木衛には、今、決意がありました。固く、揺るぎない決意が。
「俺……獣医になる！！」
　もちろん、簡単に届く目標ではありません。不安がないとは、とても言い切れません。
（調べてみたら、倍率すっげーーーんだよな。気合入れねーとやべえよな……全科目１００点取るくらいじゃねえと、厳しいか？）
　志は高く……とはいえ、一朝一夕でできることではないわけで、一気に駆け上がるのが現実的ではないことも、衛はよくよく理解しているのです。
（ここは、手の届く目標からこなしていこう。目指せ、５教科９０点台ッ！！）
　どちらにしても、相応に高い目標ではあります。それでも、目指すべきところを考えたら、当然こなして然るべき課題です。
（まずは、得意の数学から仕上げる。１００点取るぞ！　……そのほかの科目は……今度こそ、赤点回避しねえとなー）

「おーっ、ここにあったんだな！　サンキュー、図書委員さん！」
　はにかむ図書委員にお礼を言うと、衛はさっそく机に向かいます。
　公式はある程度、頭に叩き込んであります……けれど１００点に届かないのは、回答の精度が低いから。暗算も得意なはずの衛の弱点は、その精密さのブレであるようです。
（時々、使う公式間違えたりするもんな……これじゃダメだ。こうなりゃもう、数をこなすしかねえ！）
　猛然と。衛は真剣な眼差しで参考書や問題集をにらみ、ひたすらに、握った鉛筆を走らせます。
　ひたすらに、一心に。図書室が閉まる時間まで、まるでタイムアタックに挑むように、無心に。衛は、問題を解き続けます。
　もとより、凝り性なタチではありました。勉強についてもそれは例外では無くて、理数系の科目には特に自信があります。その反動のように、美術や音楽など、芸術系の科目がどうにも振るわないのは、ご愛敬ですけれど。
　ともかく。そんな彼の元来の気質を差し引いたとしても、衛には、努力する理由がありました。目指すところには、そうして時間と力を費やすだけの価値がありました。
（……俺……やるからな。カイくん……）
　翼持つ、黒く気高い獣たち。不思議な扉の向こうへ消えていった、あの後姿。
　振り返り、くぅ、くぅと鳴いた、相棒の声。ちゃり、と音を立てた、誓いのドッグタグ。
　全て、衛がこうして真っすぐな努力を続けるに足る、確かな理由なのです。
（目標、問題集一日一冊！　そんくらいしねえと……きっと、カイくんに怒られちまうもんな）
　分からない問題はひとまず飛ばして、とにかく、とことん、問題を解き続けます。身体が、頭がすっかり、覚えてしまうまで。奥の奥まで、叩き込まれてしまうまで。
　勉強は、図書室の閉館時間まで続きました。

　もちろんのこと。
　家に帰ったからといって、本日の勉強は終わり！　というわけにはいきません。
（よーし。数学はある程度こなしたから、次は……）
　まずは、今日の授業の復習を完璧に。その後は一日一教科ずつ、英語から始めて、理科、社会、国語。順に、より深く、理解を深めていきます。
　一朝一夕、並大抵の努力では、衛の志す場所には到底、手が届くはずもないのです。
（……むー。でもこれ、あんま効率よくねえのかなー……）
　もちろん、簡単に届く目標ではありません。そう……不安がないとはとても、とても言い切れません。
　けれど、
（明日先輩に、効率の良い勉強方法とか聞いてみよっと）
　ちょっぴりマイペース、けれど頼りになるあの先輩なら、きっと力になってくれるでしょう。彼女の顔を思い浮かべると、何だか勇気が湧いてきます。
　それに、
（カイくん……見ててくれよな）
　今は遠い世界にいる相棒と、いつか再び出会う時。情けないところなんて、見せられません。あの凛々しい姿を思い出すと、身が引き締まるような気がしてきます。
「……よーし！　やるぞっ」
　衛の勉強は、このまま深夜まで続くでしょう。

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