お絵かきの時間｜リアクション

お絵かきの時間

■うすいほんがあつくなる
　日差しの下でネコが転がっている。
　三月の寒空だというのに空気は暖かく、犬もぽてんと転がってしっぽを振っていた。
　ここは八神修の家にあるサンルーム。
　サンルームがある家ってなんだよブルジョアかよと思う無かれ。そのものずばりブルジョアジーである。
　椿美咲紀はサンルームの端でスケッチブックを開いて、さらさらと鉛筆を走らせていた。
「ははあ、ここはにゃんこ天国ですねえ」
「そうか？　まあ、確かによくここにいるな。折角だから今度、キャットタワーでも設置してみるか……」
　修はといえば、その場に座ってじゃれてくるネコをあやしたり犬をなでたりと和やかな時間を過ごしている。
　ネコにとって心地よい場所は人にとっても心地よいというが、これもその一環なのやもしれぬ。
　美咲紀はころがったわんこのお腹をわしわしとやって、そんなことを思った。
「さて、シュー君。折角なのでそこでじっとしていてくださいな」
「じっと？　なんで……」
「まあまあまあ」
　スケッチブックにイラストを書き付ける美咲紀。
　といっても風景画ではない。
　なんかしらの二次元キャラクターのイラストである。
　アレンジにとネコの耳をはやしてみる。
　クールに振る舞う修の様子を参考にして、じゃれていくネコの耳やしっぽを参考にして……。
「うーん、いいですねえ。俄然萌えます」
「何を描いてるんだ」
「ウスイホンの題材を」
「……間違っても俺を脱がさないでくれよ？　事務所ＮＧなんだ」
「事務所あるんですか」
　などと軽口を叩きながらイラストを増やしていく美咲紀。
　クールに振る舞うけど耳としっぽに感情がダダ漏れになるキャラクター、なんてのは沢山居るが、実物を参考にするとやはりリアリティが違う。
　ネコを描くにはネコを撫でよとは誰の言葉だったか。なんかのアニメかな？
「ハッ、猫耳に限らず犬耳もいいですね。コーギーとかシェパードとか……うーん……」
　悩みながらもしゃかしゃか鉛筆を走らせる美咲紀に、修はちょっとばかし身の危険を感じた。
　具体的には言わないが。
「少しくらい動いてもいいですよ」
　と言うので、修はお言葉に甘えて（？）甘えてきたネコを抱き上げて頭を撫でてやった。
　そうこうしていると膝に別のネコがすっぽりとはまって丸くなっている。
　ここまではネコあるあるなのだが、その様子を見ていた犬たちが小さく吠えた。
　苦笑して手招きをすると、しっぽを振って駆け寄ってくる。
　あまりに勢いがいいので押し倒されるが、よしよしと撫でてやった。
「シュー君動きすぎです」
「動いてもいいと言ったじゃないか」
　ぷくりと頬を膨らませる修。
　美咲紀は唇を突き出して、しかしもうイラストを増やす作業に戻っている。
「……」
　修はサンルームに寝転んだまま、ネコや犬を抱いて空を見た。
「春ももう、近いな」
　目を瞑り詩を詠んでみる。
「雅な」
　などと言いながら、美咲紀は最後に犬猫にまみれる修をイラストに描き出した。

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