お絵かきの時間｜リアクション

お絵かきの時間

■WEARING ME
　ヒーターの音と冷たい空気。
　窓からさす日の光はしかし、暖かさには至らない。
　椅子の肘掛けにほおづえをついて、桜月は紙片を机の上に広げた。
　トランプカードのように弧を描いて並ぶそれを、端からぼうっと眺める。
　これまで見てきた世界の断片が、ぼんやりとした風景がという形でセーブされていた。
　最近は、セーブすることが多すぎるように思う。
　この島のせいだろうか。
　まわりの人々のせいだろうか。
　その全てだろうか。
　手元のメモを並べ替えていく。
　あれとこれと、あれとあれ。そうしているうちに、頭の中にある日の光景がよみがえってきた。
　人間は世界でできている。
　光景と、印象と、歴史でできている。
　彼女が描き出したイラストは、そんな世界の断片だ。
　いわば、その日の彼女の断片だ。
　組み合わせて、溶け合わせて、やがて彼女の中に新しい形を作っていく。
　衣服の模様や形や、素材の質感や光の照り返し。あの日の自分の中にあった世界を……あの日の自分を、自分という世界を、衣服のデザインに落とし込んでいく。
　それはさながら、自らを圧縮していくような作業である。
　言語というものはなんて不自由なのだろうと、人は常々思うものだ。
　気持ちも伝わらなければ、事実すらもまともに伝わらない。
　人のありようや、世界のことわりなど、きっとかけらすら伝わらないだろう。
　言葉よりももっと膨大で、それでいて現実的で、目に見えた何かを人はいつも欲している。
　彼女が選んだファッションデザインは、そんな中のひとつだった。
　自分という世界を圧縮したこの服を、人は着るだろうか。
　着てくれるということは、自分を受け入れたということだろうか。
　世界を、受け入れたということだろうか。
　そうだったらうれしい。
「……」
　気づけば、いくつものデザインができあがっていた。
　その中のひとつをつまみ上げてみる。
　この服を、『彼女』に着て貰おう。
　喜んでくれるだろうか。
　受け入れて、くれるだろうか。
　そうだったらうれしい。

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