お絵かきの時間｜リアクション

お絵かきの時間

■SECRET THE ART（SECRET HEART）
　生きることはとても面倒くさい。
　呼吸はしなくちゃあいけないし、会話もしなくちゃあならない。
　人は自分を見ていて、自分は人に見せなくちゃならないのだ。
　なんてうっとうしい光の反射。
　みな、みな、太陽で目を焼いてしまえばいいのに。

　天宮城因はため息交じりに絵筆をつまんだ。
　美術課目の絵画を専攻した彼女にとって、絵画の課題は面倒な時間のひとつだった。
　かわいいかわいい、そしてちょっぴり毒のあるちなみちゃん。
　そんな彼女が描く画は、きっと真っ黒でへんてこなものだろうと、きっと皆が思うだろう。
　そして事実、その通りなのだが。
「めんどくせー……」
　低い声で呟いてから、キャンバスに筆を叩き付ける。
　叩き付ける。
　叩き付ける。
　美しく整えられた人間めいたシルエットと美しく光さす背景。
　人物の肌は美しく白いが、あまりに美しすぎて人間らしいそれを失っていた。まるで血の通わない死体のような、しかし無理矢理生きているような。
　人物は仮面をつけていて、目元に空いた穴は人物の先の更に先の、ずっとずっとかなたの闇へ続いていた。世界ごとくりぬいたような闇で、人物は笑顔を作っていた。
　手元に鳥籠をさげている。
　異形の鳥が納められ、鳥は、鳥は……。
「あっ」
　鳥の絶叫を描き出そうとしたその瞬間、因は手をまだらもように汚していたことに気がついた。
「あ、んん……」
　誰も居ない後ろをちらりと見て、周囲を見回して、そして立ち上がる。
　絵の具をおとすためのバケツに黒い絵の具を薄めてたっぷりとため込むと、絵画めがけてぶちまけた。
　キャンバスが真っ黒に染まり、ひたひたと黒いしずくが垂れていく。
　腰に手を当て唇の端をつりあげた。
「そうそう、因はこれでいいんですよ……」
　因は乱暴にキャンバスを掴むと、美しく美しく、アーティスティックに笑って歩き出した。

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