美少女戦士？の尋ね人｜リアクション

美少女戦士？の尋ね人

　　　４

　その少し前に遡る。
「いやー、大量大量っ」
　シーサイドタウンの北里雅樹は、ホクホクの笑顔で帰路についていた。
　莉鳥に巧の下宿に誘われていたのだが、ディスカウントショップで食料品の大安売りをするために断ったのだ。
　両手の袋に山のようなカップラーメンやレトルト食品が詰め込んである。今や財布は空に近いが、一ヶ月分の食費と考えれば非常に安い買い物だった。
　故の笑顔である。
「そこの男、待て」
　声をかけられ振り返った雅樹の目が、点になった。
　少女が立っていた。白い肌、銀色の髪、紫の瞳、血のように赤い唇――控えめに言っても、息を飲むほどに美しい。まるで彫刻のように端正な顔立ちだ。
　そして二月だというのに水着――のようなものを着ている。一見するとビキニだが、まじまじ観察してみると、生地がやけに厚い。いや、硬そうだ。これはひょっとして、ゲームや漫画で言うところの「鎧」という代物ではないだろうか？
　鎧とはいえ薄着であることには変わりないし、肩を覆う程度のマントは羽織っているが、寒いだろうなあ、と雅樹は一気にそこまで考えた。
　そして、腰の剣に気付いたとき、血の気が引いた。
「な、なんか用かな？」
　本物の剣――細身だ。おそらく、レイピアというやつだろう――かどうかは分からない。が、真剣ならば対応次第で我が身が危険だ。
　その少女は雅樹の顔をじっと見つめ、ふっと息をつくと、
「すまん。人違いだ」
と踵を返した。
「えっ？　ちょ！」
　少女の体はふわりと飛び上がった。どうやらかなり身が軽いらしい。建物の屋根から屋根へ、ひょいひょいと渡っていく。
「逃がすか！」
　雅樹は追った。が、両手の袋が邪魔でうまく走れない。一瞬、捨てていくことも頭の片隅を過ぎったが、とんでもない考えだ。
「おい、どうした？」
　雅樹の必死な形相と様子に気付き、同じく買い物に来ていた亮が駆け寄ってきた。
「あれ！」
　その一言と目線で、亮は察した。
「待て！　待ってくれ！」
　亮は息を止め、「発動」と心の内で呟いた。三倍になった身体能力を駆使し、建物の屋根に上り、少女を追う。
　少女はちらりと振り返り、困惑した表情を浮かべると立ち止まった。
「何か用か？」
　少女の前で、亮は息を吐いた。
「用があるから、追ってきたんだ。……取り敢えず、降りないか？」
　彼らの足元でははあはあ息を切らせながら、それでも食料品を一つも落とさなかった雅樹が、追いついたところである。
　雅樹だけでなく、ちらほらと野次馬が集まってきている。
「目立つから、もうちょっと静かなところへ。話がしたい」
　少女は躊躇いつつも、人目を気にしたのだろう、亮に従った。
　旧市街に程近い、あまり人気のない小さな公園に二人は向かった。雅樹もすぐにやってきた。
「他の連中を撒くのがちょっと面倒だったわ」
　笑いながら、雅樹はベンチに食料品を置いた。
「で？」
「で――とは？」
「俺を見て、人違いだと言ったろ？　誰と間違えたんだ？」
「答えねばならないか？」
「あんた今、ものすごーく噂の的。このまま人違いを続けてたら、当の相手に逃げられるんじゃないか？」
　その指摘に、少女はふむと考え込んだ。
「俺たちが信頼できないなら、まずは名乗るよ。俺は新田亮。こっちは知り合いの」
「北里雅樹」
　学年は違うが、巧の下宿で顔を合わせている。友人と呼べないまでも、知人と言う分には間違いではない。
　考え込んでいた少女がふいと顔を上げた。
「私はリリー。探しているのは、琥珀（こはく）という男だ」

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