【星幽塔】第一階層　ほしびとと共に、或いは、塔と愉快な仲間達｜リアクション

【星幽塔】第一階層　ほしびとと共に、或いは、塔と愉快な仲間達

【ねこよろず新武器開発計画】

　さて、そんな黒い鈴の噂が町をざわつかせる一方で、もう一つ、町で騒動になっている出来事があった。
　それが、

「あれがクレイグさんの仰っていたト・ゲトーゲですか……」
　今、まさに常闇月がジッと油断のない視線を注いでいる、トゲトゲ生物ト・ゲトーゲの暴走事件であった。
　月は、城下町で経営している武器屋兼雑貨屋『ねこよろず』の仲間である椿美咲紀と八神修とともに、鍛冶屋クレイグ・ドナハから聞いた暴れト・ゲトーゲの沈静化作戦に参加していた。
（……私の役割は囮。できるだけ怪我をさせないように、ト・ゲトーゲの意識をこちらに引きつけたいと思います）
　月は頭の中で前もって叩き込んでいた周辺の地図をざっと確認しながら、路傍の石を拾い上げて、ト・ゲトーゲのやや前方に投げた。
　それに、ト・ゲトーゲはビクッと身体を痙攣させ、それから月の方を振り向いた。
　その瞳に、怒りの炎が宿る。
（来る……！）
　その怒りを感じ取るやいなや、月は踵を返して、美咲紀が先に人払いをしているはずである路地の方に向かって勢いよく走りだした。

　椿美咲紀は星の力（魔風）を使って、ト・ゲトーゲを誘き寄せる経路にいる人々に注意を呼び掛けていた。

「みなさん！　もうすぐこのあたりを暴れト・ゲトーゲが通るかもしれません！　危ないので、お家かお店の中に避難していてくださーい！」
　そう言った美咲紀の声は決して大きなものではなかったが、星の力で風の便りと化したそのメッセージは充分に経路の人々に行き届く。
　白い外套を風になびかせながら、美咲紀は人の気配がなくなったことを確認すると満足げに「うん」と頷いた。
「これで、いつ月ちゃんが来ても大丈夫ね……って、あら？」
　と、そこで美咲紀は民家のベランダなどに干してある白いシーツが視界の端をちらついていることに気づく。
「……あれ、使えるかも」
　そのとき街の人々のざわめきと、ト・ゲトーゲのものと思しきパカラパカラという足音が聞こえてきた。
「来たわね……！　あ、月ちゃん、こっちなのです☆」
　目標を誘き寄せつつ、罠の方角に走って来る月の姿を認めると美咲紀は手を振って合図を送る。
　次の瞬間、頷いた月がひゅっと大きく跳躍すると華麗な身のこなしでト・ゲトーゲの視界から消えた。
　消えた月に驚いたト・ゲトーゲが思わずという立ち止まって辺りを見まわす。
「よし、チャンス！」
　その隙を狙って、美咲紀は魔風の力で干してあったシーツを風に乗せてト・ゲトーゲの目の前を舞い踊らせた。
　驚いたト・ゲトーゲは再び勢い良く街を走り出し、首尾良く罠を仕掛けた袋小路へと入り込む。
「月ちゃん、今なのです！」
「……はい！」
　そこで、美咲紀と月がタイミングを合わせて仕掛けに結び付けられた縄をグッと引く。
　その瞬間、狭隘な袋小路に誘い込まれたト・ゲトーゲの頭上に大きな網が覆い被せられる。
　網を被せられたト・ゲトーゲは鋭い鳴き声を上げながら、じたばたと暴れはじめた。
「わっ、駄目よ！　そんなに暴れたら怪我しちゃうわ！」
「椿さん！　抑え込みます、手伝ってください！」
「う、うんっ！」
　月の言葉に頷いて、美咲紀は魔風の力でシーツをト・ゲトーゲに被せて視界を覆った。
　視界を奪われたト・ゲトーゲは少しだけその動きが鈍くさせる。
　そこに月が呪術の力で、ゆっくりとト・ゲトーゲの体力を消耗させていくことでようやくト・ゲトーゲは大人しくなった。
「……うん、これでだいじょうぶみたいね」
「ええ。それでは八神さんとクレイグさんのところに連れていきましょう」
　そうして二人は協力して大人しくなったト・ゲトーゲをクレイグ・ドナハのもとに連れていくことにしたのだった。