ここは星幽塔、第一階層。
薄野 五月はサジタリオ城下町の広場で、行き交う人々を観察していた。
なんとも説明のしようがない形態の者もいるが、多くは人間の姿形をしている。
彼らの出自は様々だが、総じて『ほしびと』と呼ばれている。
そして『ほしびと』には、『ひと』とは違う特徴があるらしい――
ガラガラガラガラ。
赤ん坊を乗せたベビーカーが、凸凹した石畳に揺られながらやってくる。
『ほしびと』がいるということは、その赤ん坊がいたって不思議ではない……が、五月は思わず二度見した。
「べ、べ、べ、ベビーカーがひとりで?」
ベビーカーを押している者の姿が見えないのだ。
誰も押してないのに、がたがたと揺れながらこちらへとやってくる。
「お、お母さんは……?」
赤ん坊を不思議そうに見る五月の問いに、赤ん坊が答える。
「そんなもの、とうの昔に死んじまったわい」
「そそ、そんな、こんな赤ん坊を置い……て?」
「い、い、い、いま、赤ちゃんが喋りました~?」
どうやらこの赤ん坊は、こんな姿でも924歳らしい。
『ほしびと』は千年生きると言われているが、まさか0歳の姿のまま歳をとることもあるとは……。
「こんなことで驚いてるということは、あんたアレか、最近噂の『もれいび』じゃな」
「……は、はい」
「もれいびさんや、悪いがオムツを替えてくれんかのう」
「やってみましょう」
五月は慣れない手つきでオムツを替えるが……
「ひ、ひ、ひ、光ってる?」
赤ん坊のお尻は、桃色にピカッと光っていた。
そう、桃色の星の力『騎士の光』を宿していたのだ。
どうやらこの力でベビーカーを操って移動してるらしい。
「恐るべし、ほしびと……ですね」
「清潔な水が気軽に手に入ると、ミルクつくるのに助かるんじゃがなあ……」
「ふふっ。わたしの『ろっこん』を貸してあげたいところですね」
「あんだって?」
「いえ、なんでもありませんよ。それよりこのお肌のきめの細かさ、羨ましいですね~」
五月は無防備な赤ん坊のほっぺをさわさわ。
「こらこら、やめんか」
「だって、これはたまりませんよ~」
さわさわさわさわさわさわさわさわさわさわさわさわさわさわさわ。
と、そのとき――
きらきらーん☆ ほっぺが虹色に光り出した。
「ふふっ。もう、驚きませんよ……」
赤ん坊は驚いていた。
「なんということじゃ~! あんた『もれいび』と言ったのう。これはもしや、噂のアレか!?」
「アレ?」
「さっき『ろっこん』とも言ったろう。もしかしてこりゃあ、アレじゃな……アレアレ」
「アレとはなんでしょう?」
「だからアレじゃよ。えーっと、ほら、あのアレ……ええーい、やってみるのが早いかのう!」
赤ん坊がギュッと目をつむると……
ガコンッと音がして、自動販売機が召喚された。
「わ、わ、わ、私のわわわわわ???」
五月はひたすら驚いていた。
なにしろ、ろっこんを発動させていないのに発動したのだから。
「話には聞いていたが、本当にあるとはのう」
「私の『ろっこん』が……」
「うむ。あんたの力を使えたようじゃな」
「私の『ろっこん』はあなたへ移ってしまったのでしょうか……?」
心配になって試してみると、ガコンッ。
五月は五月で召喚できた。
これは、『虹色の星の力』。
『ほしびと』がある種族の者と触れると、一時的に得ることができると言われている、もうひとつの『星の力』だ。
虹だけあって、いろいろな力が使えるようになるが、同時に消えるのもまた早い。
ほっぺの光は既に消えていた。
五月は赤ん坊のほっぺをもう一度さわさわして光らせると、つぶやいた。
「『ほしびと』と『もれいび』……もしかしたら、いいパートナーになれるかもしれませんね!」
ごきげんよう。もしかしたら星のサーカス団の一員かもしれない水月 鏡花です。
そんなわけで、「らっかみ!」ワールドに新たな種族――『ほしびと』が追加されることとなりました。
今回は、そんな『ほしびと』との交流、自分たちのお店や第一階層でのんびりする様子など、
今の時点でわかる星幽塔第一階層のあれこれを自由に楽しめるシナリオです。
『ほしびと』とは
遠い昔から現在に至るまで、さまざまな世界の冒険者たちが、
伝説を聞いて、ある宝を求めて星幽塔にやって来ている。
そんな冒険者のうち、ある者は夢破れて元の世界に戻り、ある者はそれぞれの階層に残った。
つまるところ現在の星幽塔の住人たち『ほしびと』とは、
かつてどこかの世界からやってきてそのまま住み着いた冒険者の子孫であったり、
自身が異世界から夢とロマンを求めてやってきた現役の冒険者であったり、
ある日どこからかやってきてしまった迷い者であったりするという。
『ほしびと』は、長い者は千年生きると言われている。
ただ、実際の年齢と関係なく、見た目や体力は若かったり老けてたりバラバラなのが特徴である。
『ほしびと』の持つ、第二の「星の力」
『ほしびと』は「星の力」を持っていることが多いが、持っていない者、持っていても自覚のない者もいる。
そして、これまで登場した「星の力」とは別に、第二の力、「星の力(虹)」を持っている者もいる。
星の力(虹):もれいびに触れた『ほしびと』にのみ宿る。
ろっこんをコピーして使うことができる。
『ほしびと』と『もれいび』がお互いに意思を持って身体(衣服でなく生身)に触れると、
(例:ハイタッチ。ほっぺをすりすり。殴る。キス)
『ほしびと』の触れたところか持ち物のどこかに「星の力(虹)」が宿る。
「星の力(虹)」は一定時間のみ宿る。短ければ一瞬、長ければ一日。
ろっこんの発動条件は無視して使えるようだが、能力によっては発動条件を満たす必要がある。
発動条件が必要な場合、たいていはその内容を直感的に理解できてしまう。
※明確な意思がなくても、心のどこかに潜在的にそういう意思があれば、「星の力(虹)」は宿る。
※もれいび側はいつも通りにろっこんを発動できる。
能力を奪われるのではなく、あくまでも一時的に「コピー」されるだけ。
『ほしびと』のNPCと本日の出来事
このシナリオでは、以下の『ほしびと』のNPCが登場します。
ちょっとしたトラブルなどもあわせて、参考にしてください。
いっしょに戦ったり、自分たちのお店に呼んだり、虹の力を試したり、自由に絡んでください。
1.ジュリアーノ・バッジョ
924歳の赤ちゃん爺さん。冒険者。
騎士の力をお尻に宿して、ベビーカーを自在に操る。
うろ覚えの伝説やら宝やらを話してくれることもあるが、気まぐれ。
ベビーカーとの追いかけっこになるかも。
でも、どなたか、オムツ替えとミルクをお願いします!
2.マリリン・ダイナマイト
699歳のピチピチギャル婆さん。迷い者。
シャウラの泉で若返って、元気があり余っている。
なんだか楽しくて浮かれていて、行く先々でトラブルがありそう。
男子は目をつけられて追いかけられるので、要注意。(マリリンに追いかけられる確定ロールは歓迎)
コメディチックな展開がお好みの方はこちらへ。
なお、泉の効き目はもうすぐ切れそうな予感……(*PL情報です)。
3.フランチェスカ・ダ・サジタリオ
サジタリオ城の城主で、射手座のアステリズム。
最近お城の中で問題となっている、ひとりでふわふわと飛ぶ「黒い鈴」を始末しようと思ってる。
この鈴は、触れた身体の部分が溶けてしまうので、大変危険。
鈴の捜索や破壊のために手を貸してくれる人がいたら、喜んで受け入れる。
4.ジルベルト
フランチェスカの補佐役。
70歳を超えているが、先日イケメン執事に若返った。何度でも若返るつもりだろう。
というか、今回も若返った姿で登場する。
フランチェスカとともに「黒い鈴」を探している。
虹の力などいろいろなことをよく知っているが、今は「黒い鈴」に集中している。
若返った状態での剣術はかなりの腕前。
5.アラン・ガット
今のところ年齢不詳。生まれも育ちも星幽塔。
武器屋のオヤジ。筋骨隆々。頭にバンダナを巻いていて、渋い。
虹の星の力、ろっこんなどは噂として知っていて、興味がある。
自分の店にもいるし、城下町のいろいろな店へも行く。(PCさんの店に来た確定ロールも歓迎)
6.クレイグ・ドナハ
今のところ年齢不詳。鍛冶屋のオヤジ。
茶色のひげを三つ編みにしたずんぐりむっくり。
城のため、町のために戦う者には協力を惜しまない。
背中以外はトゲトゲの、馬くらいの大きさの珍獣「ト・ゲトーゲ」を操る名手。
現在、城下町を暴れト・ゲトーゲが数匹走り回ってるらしい。ト・ゲトーゲ用のクツワなども販売中。
7.ダニエル・ブラッチ
酒場のマスター。寡黙でダンディな中年男。出自不明。
酒場に出入りするなら、顔見知りになっておく方がよい。
いろいろ知ってそうだが、何も語らない。うまく懐に入れれば多少は聞けるかも。
異世界の酒や煙草に興味があり、星幽塔に来たばかりの者を見かけると声をかけることも。
酒場から出ることはそうそうない。
8.リタ・ベルティ
酒場の給仕女。胸が大きく、気風のいい20代の独身女性。
困ったことがあれば、手を貸してくれるだろう。
自分の店にもいるし、城下町のいろいろな店へも行く。(PCさんの店に来た確定ロールも歓迎)
ト・ゲトーゲが苦手。
※特に誰とも絡まずに、ひとりで、あるいは友だちPCさんとだけ過ごすのも歓迎です。
星の力
星幽塔の中では、ひとりにひとつ、不思議な光が宿っています。
剣士の光(青) :剣技が上手くなる
闘士の光(橙) :腕っぷしが強くなる
狩人の光(紫) :弓矢が強くなる
盗人の光(金) :普段より勘がはたらき、器用になる。
(例:宝物を見つけたり、鍵開けが得意になったりする)
魔火の光(赤) :火の魔法を使える/星の光が宿った武器が火属性になる
(例:火の玉を飛ばす魔法が使える、刃に炎を纏ったりできる)
魔水の光(水色):水の魔法を使える/星の光が宿った武器が水属性になる
(例:水流を鉄砲の様に飛ばす魔法が使える、刃に水を纏ったりできる)
魔風の光(緑) :風の魔法を使える/星の光が宿った武器が風属性になる
(例:つむじ風を起こす魔法が使える、刃に旋風を纏ったりできる)
魔土の光(茶) :土の魔法を使える/星の光が宿った武器が土属性になる
(例:土礫を投げつける魔法が使える、刃に砂を纏ったりできる)
癒しの光(白) :自分や他者を癒すことができる
騎士の光(桃) :乗り物(生き物や機械類。大きさは馬程度まで)を巧みに操り戦う
星の力を小型の乗り物に変化させることもできる。
ペガサスなど架空の生き物、一般的な装備などもOK。
(例:炎を吐くチビドラゴン、手綱や鞍のついた馬)※機銃のついたバイクはNG
※アクション例
【騎士の力/剣】馬を巧みに乗りこなす。※この場合乗り物は別途調達
【騎士の力/馬】星の力を馬として実体化し、巧みに乗りこなす
呪術の光(黒) :呪いの力で対象を弱体化させる
(例:体力を奪う、敵の攻撃魔法を弱くする)
光は体に宿ったあと、その者にあわせた形状に変化し、身につけることになります。
(例:指輪、体に埋め込まれる、武器になっている、愛用の武器の装飾に)
※星の力のサポートは、星の力が宿ったアイテムを所持していない時は受けることができません。
※武器(剣、弓、斧、杖など)はひとりひとつ。双剣など2つで1セットのものなども可。
※星の力やその形状は、変化したりしなかったりいろいろなケースがあるようです。
(このシナリオの中では変化しませんので、今回はひとつだけ選んでください)
※もれいびは「星の力」と「ろっこんの力」の両方使えます。
※ひとは「星の力」を使えます。
※塔に召喚されると、衣装もファンタジー風に変わります(まれに変わってないこともあります)
※もちものは、そのPCが持っていて自然なものであれば、ある程度持ちこめます。
どの星の光をまとい、その光がどんな形になったかを
アクション冒頭に【○○の光/宿っている場所や武器の形状】のようにお書きください。
衣装にこだわりがあればそれもお書きください。
それでは、星幽塔でお待ちしてます!