２！２！２！｜リアクション

２！２！２！

　桜とタルトが帰宅してから大分時間が経った頃、ピークタイムを過ぎたミルクホールで、英二は仕事あがりのエリセイとレナートについて二階へ登った。
　使命を果たして眠っているポンチクの隣のソファでは、スコティッシュフォールド特有のどっしりした座り方をした誉と、丸くなっても貫禄があるイリヤがくっついていた。泉がゴシゴシ目をこすっている。
「そいつら見てると眠くなってやばかった。つか、もう寝ても平気かな」
「夕ご飯食うまで我慢しなさい」レナートは泉の肩を叩いて、誉で膝を折った。「誉も、せめて夕ご飯だけでも食べて行って。このまま帰ると危ないし。どうしてもって言うなら送る」
「そだねー。つかいつ人間に戻んのかなあ」とエリセイが首を捻っている。
「多分ですけど……こういう場合のパターンだと大体１～２日したら元に戻れるような気がするから、安心していいと思いますよ」
「うん、じゃあ今俺、大船乗ったから。
　よし。今晩は猫も食べやすいようにパスタかリゾットでもするかな。英二も食ってくー？　スペシャルごはん」
　冷蔵庫を探り始めたエリセイの横で、レナートは誉を抱きあげて「心配だからネギとか入れるなよ！」と言っている。
「他にも食べられない材料あったら先ににゃーんて言うんだぞ」
「みゃーでも良いからな」
　と、そんな和やかな空気を裂いたのは、ドタンッと何か大きなものが落ちた音だった。
　振り返ると、跳ね起きたポンチクの前で、床に倒れた泉を下敷きにして、全裸のイリヤが座っていた。
「あのね……、よく分からないんだけれど、いきなり戻っちゃって……へ、へへ」
　同性同士ではあるものの流石に気まずい格好のイリヤは、苦笑いで流そうとしながら縮こまった姿勢で自室へ戻って行った。
　腹を抱えて笑うエリセイと、苦笑してしまう英二。レナートはため息をつきながら、誉に言った。
「ほら、外でああなったら悲惨だから。今日は泊まっていきな」

(ΦωΦ)！

　外でなくとも人前なだけで十分大事故だったが、武道は「うわっあお！？」と叫ぶだけで最悪の事態は免れた。
　まだ夜中で、桜はまだぐっすり眠っている。
　先に急いで布団代わりにしていたバスタオルを腰に巻くと、足音と衣擦れに気をつけながら服に着替える。
（……しかし……、櫻ちゃんがいてくれてほんと良かったな）
　眠る女性の隣で着替えるだなんて大した絵だが、こんな状況なのが自分たちらしいと、武道はこみ上げる笑いを堪えるのだった。

(ΦωΦ)！

　京はと言うと、目覚めたのは翌朝だった。
　こたつから這い出た彼女もまた、自らのあられもない姿に気付いて叫び声を上げる事になった。
「えぇ〜……なんでぇ！？」
　しばし混乱して昨日のことを思い返す。
　砂浜で遊びまわった後に、流石に疲れて帰宅した。それから楽しい思い出を胸に抱いたまま、こたつでぐっすり眠ってしまっていたのだ。
　猫になった時に脱げた服のことは、完全に失念していた。せめて布団をかけておけば良かったと思いつつ、身体を隠しながら服を取りに戻るしかなかった。
「なんでこうなっちゃったのぉ？　恥ずかしいよぉ〜！」

(ΦωΦ)！
　
　唯一秘密を守り切った刀だったが、学校ではやはり気まずい思いをした。
　海と千歳の話題が昨夜のことで持ちきりなのだ。
『あの黒猫さんいきなりいなくなっちゃったけど、どうしたのかな』
「きっと家に帰ったのよ」
　ね、とこちらを振り向かれ、刀は「そうだな」と答えながらもそそくさと二人から視線を逸らした。まっすぐ見てしまうと、あの肌色が凄い思い出がよみがえってしまう。
　昨夜の出来事は、絶対に自分だけの秘密だ。

　いろいろと忘れられそうにない思い出をかみしめつつ、刀は赤くなった顔を隠すように、がくっと机に突っ伏した。

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