To you of mirrored｜リアクション

To you of mirrored

■ケース８：真面目な生き方
　キャンパスライフは楽しいものだと、勝手に錯覚していたことがある。
　『未来』とか『明日』とか『新天地』とかいう言葉を勝手にポジティブに解釈していた頃と、それは重なっていたようにも思う。
　似たような趣味の仲間とサークルで出会い、適当に出席日数を誤魔化す友達に時折あわせ、酒の席に誘われたり、大人ぶった先輩に調子を合わせたり。
　キャンパスライフとやらが、大人の社会生活におけるチュートリアルステージだと気づいたのは、いつ頃だったろうか。
　真境名アリサは六法全書を枕にして、机にこてんと突っ伏した。
　大学を卒業して、大学院へ進み、司法試験に合格して、やがてはどこか待遇のいい勤め先を見つけて暮らす。
　現代人が一般的な社会生活を送るのに必要な金額は単純計算で二億円と言われている。これを何歳までに稼げるかで、娯楽に浸れるかどうかが決まるとも。
　中には証券会社で修羅の如く働いて優雅な三十台を目指すとかいう猛者もいるが、アリサにはえらい博打を打っているようにしか見えなかった。
　コタツに足を突っ込んで、そのままずるずると引きずり込まれるがごとく身体を埋めていく。
　なんかもう死にたかった。理由も手段もないが、なんか死にたい。
　目がかすんで、勉強も手に付かなくなってくる。
「お出かけでも、しようかしら」
　こういうとき他人ならどうするのだろう。
　大学の食堂でパチスロですっただの競馬で設けただのいう男たちは毎日なんだか楽しそうだ。未来のことなんて良くも悪くも思っていない風で、頭の中に唐揚げ弁当でも詰まっていそうな連中だ。
　ああはなるまいと思うが。
　ならどうなりたいのかと言えば……。
「っと、このままじゃダメね。鬱になってきた」
　こたつから這い出る。
　お出かけでもと思ったら、ばきりと何かを踏んづけた。
　勉強用の、青いフレームの眼鏡がへし折れていた。
「……ああ」
　あーなんかもう、死にたい。

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