バトルタワー第一階層：ヒーロー喪失｜リアクション

バトルタワー第一階層：ヒーロー喪失

■サイドＢ：絶望の怪獣と、人の形をした希望
　第零資料室が異界へのログインルームとなった最初の事件には五人の少年少女が関わっていた。
　それから暫くして、『ヒーローの消えた世界』が開かれてから、新たに加わった仲間が三人いる。
　そのうちの二人。椿美咲紀と御剣刀である。
「その世界の人たち、ちょっと他力本願じゃないですか」
　変わった形の鍵を手に、美咲紀はコンビニの裏口にいた。
　コンビニといっても随分前に潰れた空きテナントである。開かれなくなって久しい扉だ。
「かもしれないな。だが俺には関係の無い話だ。強い奴と戦えればそれでいい」
　刀も同じ鍵を持っていたが、二つあっても仕方ない。取り出したそれはポケットにしまいなおす。
「案外、世界そのものがそういう趣旨だったりして」
　かわった形の鍵は、ドアノブの鍵穴に不思議とぴったり入り、そして回すことで不思議な錠の音がした。
　学校教室にも似た、ロッカーの並ぶログインルーム。噂に聞いたとおりの場所だ。
　美咲紀と刀はそれぞれ頷くと、別々のロッカーへと入っていった。

　町が火の海と化している。
　観覧車が溶け落ち、タワーが折れて落ちていく。
　絶望の怪獣は情けも容赦もなく、ただ破壊だけを繰り返していた。
　そこへ現われたのは、美咲紀と刀の二人である。
　女神の声がする。
『ようこそ、希望の戦士』
「そんなつもりじゃない」
　刀は手を振り、自らの刀を抜いた。
「あれっ、光の武器じゃなくていいんです？」
　美咲紀は光でできた杖を持っていた。
　武器として用いられるような錫杖である。本来重たくて美咲紀じゃあ持ち歩くのがやっとだが、この武器は不思議と軽々扱えた。
「あの怪獣、既視感ありますよ。映画で見たことあります」
「そのタイプだったらなすすべが無いが、こいつはもっと古いタイプだ。来るぞ」
　怪獣がこちらを向いて、口を開いた。
　激しい炎がほとばしる。
　刀と美咲紀はそれぞれ別方向に飛び退いてこれを回避。
「思いつきました！　これをどんどん吐かせてエネルギー切れを狙うのです！」
「それでいこう。で、どうやって吐かせる」
「……つ、つついて？」
「簡単じゃあなさそうだ」

　炎を避けるというのは、思ったよりも難しいことだった。
　熱量そのものは高速で移動するし、町のそこらじゅうが燃え上がって逃げ場がなくなっていく。
　美咲紀と刀はおのずと、怪獣から逃げるような戦い方に変わっていった。
「ひい！　あっつい！」
　服についた火をぱたぱた払いながら走る美咲紀。
　再び放たれた炎を横っ飛びに回避した。
　一方、高速移動で怪獣の側面に回り込んだ刀が怪獣の腹を殴りつけ、即座に距離をとって逃げる。
　刀と岬は互いに怪獣の気を引き、炎を吐かせては回り込んで殴るという行為を続けていた。
「私、大事なことに気づいたのです！」
「なんだ」
「私たちのスタミナも切れそうです！」
「……」
　そんな気はしていた。という顔で眉間を押さえる刀。
「お互いギリギリということか。見ろ、相手も……」
　振り返ると、怪獣が炎を吐こうとしてむせるような動作をしていた。
　エネルギー切れが起きたのだ。
　ならばと腕を振り回し、突撃をしかけてくる怪獣。
「作戦成功ですね！」
「そういうことにしておこう！」
　美咲紀と刀はそれぞれ逆方向へと回り込む。
　怪獣が狙ったのは美咲紀の方だった。
「女の子から狙うとか！」
「心配ない」
　刀は身を屈め、怪獣の足を強烈に打った。
　激しく転倒する怪獣。
　ガソリンスタンドが潰され、爆発がおきた。
　燃え上がる怪獣の身体を、美咲紀は杖を突き立てて固定した。
「今です！」
　刀は頷き、一度納刀。
　強く踏み込み、全身をもって刀を抜き放った。
　鞘を走る刀が火花すら散らし、一瞬だけ音速を超えた。
　あまりの威力に、怪獣の身体が切断された。

　山を削り、美咲紀は怪獣を埋めている。
「野ざらしは忍びないですから」
　刀も手を合わせていた。
「さようなら、ヒーロー」
　自分の言葉なのに、なぜか周りから聞こえたように思えた。
　振り向くと、人々が手を合わせている。
　女神の言葉を思い出す。
　人々は悔いている。その思いが自分たちの今の身体を作り出したのだとも。
「俺は最後、通常では考えられないようなパワーを発揮していた。刃をつぶした刀であの怪獣を切断できる筈なんてなかったんだ。なのに……」
　改めて自分の手を見つめると、淡く弱く光っているのが分かった。
「女神の力が強まっている……のか？」
　まだ第一の世界にすぎないと聞く。
　この次は、またその次は。
　どんな世界が待っているというのか。

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