【突撃！ 寝高インタビュー！（先生編その１）】

　朝のＨＲまでの時間は未だ続く。
　軽い足音を鳴らし、御巫 時子は記事として使用する為にインタビューを行った五十嵐 尚輝の元へと向かっていた。
「理科準備室……尚輝先生らしいですね」
　くすりと笑みを漏らし、時子は職員室で聞いた、尚輝が居るこの場所へとたどり着く。
「失礼します。尚輝先生、いらっしゃいますか？」
　鍵は掛けられておらず、準備室の扉は小さく音を立てながら時子の手により開かれる。
　――薬品の匂い、他の教室とは違う独特なその匂いに満たされる室内で、尚輝は訪れた時子へと顔を向けていた。
「……やぁ、君でしたか」
　相変わらずの小さな声で、尚輝は時子へと声を掛ける。
「はい。新聞が出来上がったようですので、一緒に見てもらえればって思ったんですが……大丈夫ですか？」
　ＨＲまでの時間はまだ十分にあるのだ。
　時子の提案を断る理由も無い尚輝は、一つ頷きを返す事でそれを受け入れていた。
「記事、よく出来てますよ。それにこの写真……あの時、君のお弁当を食べた時のなんですね」
　尚輝が準備した椅子に時子が腰掛け、準備室内の机に広げられた新聞に二人は目を通し、そこに写った一枚の写真に対し尚輝が口にする。
それは、インタビューが終わった際に、時子が作ってきたサンドイッチを尚輝が食べている風景。
　何時これを撮ったのか、インタビューの時にはカメラらしきものを持っていなかった時子に対し、尚輝は少しだけその疑問を口にしていた。
「その……友達が撮っていたんです。せっかくでしたからこうして使ってみましたが、お嫌でしたか……？」
「構いませんよ。君がよければ」
　生徒が望んだ事である以上、尚輝がそれを咎める理由は無い。
　問題行動であれば別であろうが、こうした写真程度であれば誰にも迷惑が掛かるわけでもないのだから。
「よかったです。後、その……！」
　その答えに嬉しそうに時子は笑顔を見せるが、すぐにその表情は真剣なモノへと変わる。
「し、新聞で聞けなかった質問を一つだけいいですか…？」
「えぇ、どうぞ。僕に答えられる事なら」
　チチっと、時子が連れてきた鳥が少しだけ鳴き声を上げる。
　それは時子の想いを後押しするように、まるで頑張れとでも言っているかのように。
「あの……その！ な、尚輝先生は心に決めた方がいらっしゃいますか…？」
　やや詰まりながらも、時子は尚輝に対してこの言葉を口にする。
　時子なりの精一杯の努力。そして、そこに籠められた気持ちはとても、とても大きい。
「心に決めた人……ですか……」
　少しだけ考えるようなそぶりを見せ、尚輝は一人の人物の名を上げる。
　――ラボアジエ。時子にとっては聞いた事も無い、その人物の名前を。
「あ、え、えっと……その方は……」
「近代化学の父、とも呼ばれる昔の人です。聞いた事はありませんか？」
　ラボアジエ自体は、色々な研究を行っているが、有名どころで言えば質量保存の法則が上げられる。
　だが、男だ。間違いなく、この人物は男であるのだ。
　尚輝にしては珍しく、時子に【目指したい人物】として心に決めていると少しだけ言葉に熱が籠められていた。
「……はい、分かりました」
　せっかく勇気を出したのに、自分の意図した答えとはまったく違う事に時子は少しだけ気を落とす。
　とはいえ、こうして楽しげに尚輝が好きな人物を語る姿を見るのは、時子にとっても決して嫌な時間ではなかった。
「っと、少し話すぎましたね。これが答えになればいいんですが」
「い、いえ、ありがとうございます。でも……その、お弁当はこれからも作ってきてもいいですか？」
　一度出した勇気と、そして流れは時子にこの一言を口にする事を可能とさせる。
　――君の負担にならない程度であれば
　尚輝もまた、この言葉を口にし時子へと返す。
　その答えに満面の笑顔を時子は尚輝に返し、ＨＲの準備がある尚輝が理科準備室を出るまで、二人は新聞の話題を続けていく。

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突撃！ 寝高インタビュー！【五十嵐先生に質問】

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　――まずは自己紹介からお願いします。

　五十嵐：五十嵐 尚輝、１年５組担任をしています。

　――教師になった理由、もしくはきっかけはなんでしょうか？

　五十嵐：実験をしてたら、いつの間にか……でしょうか？
　　　　　好きな事に没頭していたら目指した先がここになった、という感じですね。

　――教師になって良かった事、悩んだ事はありますか？

　五十嵐：良かったことは、自由に実験ができることですね。
　　　　　悩んだことは……何でしょうね？ 今の所は見当たりません。

　――化学に興味を持ったのはいつからですか？

　五十嵐：たしか４歳の夏ですね。氷が溶けて水になるのをずっと見てました。

　――学校に泊り込んで実験されてる事は多いと聞きましたが？

　五十嵐：あまり大きな声では言えませんけど、気が付いたら朝だったということはよくあります。
　　　　　好きでやっていることですから私としてはいいのですが、他の先生方にはたまに注意を受けますよ。
　　　　　あぁ、ちゃんと授業はやってますよ。その点はご心配なく。

　――窓の外に居る鳥と話しているという噂は本当でしょうか？

　五十嵐：鳥と話ができたら楽しいでしょうね。まぁ、そんな事は実際ありえるはずが無いんですけれど。
　　　　　話してる、なんて噂もあるようですが、大抵は僕の独り言でしょうか。
　　　　　そんな場面を誰かが見たのかもしれませんね。

　――実験してて何日も食事を抜く事が多いのでは？

　五十嵐：何日も食事を抜くと人間は倒れます。
　　　　　生徒の皆さんも、朝食を抜くのは余りよくないかもしれませんよ？
　　　　　――僕ですか？ 無意識にそのへんのものを食べてることもあるので、あまり覚えてないですね。

　――最近行った実験はなんでしょうか？

　五十嵐：さっき授業で、炎色反応の実験をしました。
　　　　　中々に楽しいモノですよ。特に元素と原子等は――（以下化学の話を数十分）

　――先生を目指す生徒にアドバイスなどありましたらお願いします。

　五十嵐：適当にがんばってください。
　　　　　僕は目的が化学でしたが、他の目的でなりたい人はそれを頑張ってみるといいかもしれませんね。

　　五十嵐先生、回答ありがとうございました。
　　これからもご指導ご鞭撻の程、よろしくお願いいたします。

　

インタビュー回答者：五十嵐 尚輝
インタビュー記者：御巫 時子
記事構成：斉田 珠喪

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【突撃！ 寝高インタビュー！（先生編その２）】

　先生へとインタビューを行ったのは、何も時子だけではない。
　足早に廊下を走りながら、宮祀 智瑜もまたインタビューを行った桐島 義弘の下へと急いでいた。
「さっき職員玄関を通ったのを見ましたし、職員室に居るはずですっ！」
　智瑜の片手に握られているのは、未だ目を通していない新聞である。
　どうせなら、義弘と共に見たい。そんな気持ちのまま、智瑜は廊下を走っていたのだ。
「きゃっ！？」
　職員室前の廊下へと到達し、智瑜がすぐ手前にある職員室へと辿りつこうとしていたその時、ドスンと目の前に居た人物とぶつかってしまう。
「イタタ……あ、す、すいませ――」
　突然の事に尻餅をつきながら、智瑜は目の前に居たその人物へと声を掛ける。
「宮祀、何を急いでいたかは知らないが、廊下は走らない事だ」
　ぶつかった拍子に智瑜の手から離れ、廊下に落ちた新聞を拾いながら、目の前に人物――義弘は智瑜へと声をかけていた。
「き、桐島先生！」
「おはよう、宮祀。それで、急いでいた理由はなんだ？ 場合によっては注意をしなければならないが」
　眼鏡の奥に光るのは、風紀委員顧問としての義弘の瞳である。
　規則は規則。廊下を走っていた智瑜に対し、義弘は注意を行う為にその理由を問う。
「あ、あの……それです」
　怒られるのはしょうがない、けれど智瑜はゆっくりと義弘が手に持った新聞を指し、義弘に答える。
「これか？ あぁ、確か新聞部が何かを配っていたな」
「はいっ！ それに、この間インタビューをさせてもらった時の記事が載ってるんですっ！ それで、その……」
　言いよどむ智瑜に、一つだけため息をつき、義弘は新聞を手渡す。
「読みたい気持ちは分かる。だが、その為にルールを破るのはよくは無い。分かるか？」
　諭すように、義弘は尻餅をついて座ってしまっている智瑜に手を差し伸べる。
　その手に捕まり、どこか気恥ずかしそうに智瑜は立ち上がっていた。
「す、すいません……」
「分かってくれればいい。それで、インタビューの記事はどうなってるんだ？」
　注意はこれで十分だと義弘が判断し、今度はそれを問う。
　自分が答えた事が記事になっているのだから、義弘も決して興味が無いわけではないのだ。
「あ、えっと……これですっ！」
　職員室前という事もあり、廊下の窓際に移動し、義弘と智瑜は新聞へと目を通す。
　――が、インタビュー記事に使われていた写真は、予定していたものとは違う写真であった。
「む、これは……」
　義弘も、その写真に目をつける。
　被服室で行われたインタビューではあったが、とある事情――智瑜が義弘へとダイブしてしまった勢いでズボンのお尻の部分が破けてしまっていたのだ。
　その時、智瑜が補修してくれたのだが、その時の光景がしっかりと載せられていた。
「こ、こっちじゃないほうって言ったんですけど……」
「……いや、構わない。どちらにせよ、宮祀が望んだ写真なのだろう？ なら、私が否定する事は何も無い」
　冷静に、義弘はそう口にし智瑜へと答える。
　生徒が望んだ写真であれば、自分が我慢すればそれですむのだ。
　とはいえ、恥ずかしいといえば義弘とて恥ずかしいのだが。
「うぅ、ごめんなさい……」
　しょんぼりとする智瑜に対し、義弘は気にするなとだけ口にし、自分のインタビューが書かれた記事へと再度目を通していく。

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突撃！ 寝高インタビュー！【桐島先生に質問】

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　――それでは、自己紹介からお願いします。

　桐島：桐島 義弘、１年２組の担任をしている。

　――では初めの質問ですっ！ 数学以外に得意だった教科はありますか？

　桐島：合理的に解答を導き出すことの可能な教科は全て苦手ではない。
　　　　例えば科学やそれに順ずるもの、そういった物であれば実験等で答えを導きだせる。
　　　　そうした物であれば、得意と言えるだろう。

　――数学の教師をしてなかったら何になってたと思いますか？

　桐島：数学者だ。
　　　　どのような道を辿るのであれ、私にとってはそれが一番に取り組めるものだろう。

　――教師をしていて失敗談などありますか？

　桐島：……もちろんあるが、詳しく答える必要はないな。
　　　　ただ、未だ私とて未熟だ。生徒と同じように、これからも学んで行きたいとは思っている。

　――仲の良い先生は誰ですか？

　桐島：教育は仲良しごっこではない。
　　　　互いに切磋琢磨し、より高めあう存在であると私は思っている。

　――他の教科より補習が多いと聞いてますけど本当ですか？

　桐島：補習が多いのではない。補習を必要とする者が多いのだ。
　　　　もう少し皆が真面目に勉強すれば、このような事にはならないだろう。

　――珍しいマウスパッドを使ってると聞きましたけど具体的にはどんなのですか？

　桐島：……手首の疲労を軽減する実用的なマウスパッドを使っている。
　　　　何、より詳細に？ な、何を言う、断じて胸の形などしていない！
　　　　この質問はここまでだ、これ以上は答えられないぞ！

　――最後に好きな女性のタイプを教えて下さい。外見や性格等、出来るだけ詳しくお願いします！

　桐島：この質問が必要なのかは分からないが、男女共に論理的思考のできる人が接しやすいのは確かだ。
　　　　外見や性格はそこから派生するものであって、特にこれと言って私からの希望は無い。

　回答ありがとうございました！
　これからもよろしくお願いします、桐島先生っ！

　【被服室での一枚。桐島先生のズボンを縫ってあげてる場面ですね。幸せそうで何よりです】

インタビュー回答者：桐島 義弘
インタビュー記者：宮祀 智瑜
記事構成：浅山 小淋

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