魔法少女、ときどきマスコット或いはヒーロー｜リアクション

魔法少女、ときどきマスコット或いはヒーロー

　そして平行世界のシーサイドタウン。現在——。

　マジューンの攻撃がぶつかった観覧車が、ギギギと嫌な音を立てている。
　逃げ惑う人々の悲鳴がそこら中から聞こえ、砂埃は煙になって視界を覆い、地面は瓦礫だらけだ。
　シチュエーションは数多の戦う魔法少女アニメにそっくりなのに、目の当たりにすると震えの止まらない光景に、タキシードの男に安全地帯に降ろしてもらったひまりんは心細そうに呟いた。
「て、敵を倒せば全部フツウに……元に戻るって言っても、どうやって戦えばいいの？」
「あーんな感じじゃねぇの？」
　タキシードの男が指差す方向で、きらっきらっと瞬くような銀色の光が見えた。「あれは……？」目を凝らしたひまりんは、光の正体に気付いてぎょっと目を剥いた。
　あの光は、金属バットだ。
「あたしが獲るはずの世界を勝手に壊されちゃ敵わんね！」

　ブンッと一振りされた金属バットが、マジューンの巨体を凹ませている。攻撃を食らったマジューンが崩れ落ちる中で、バットの方にも少々の傷が出来ているのが無駄なリアリティだ。
　それが桜崎巴の変身した魔法少女だと不思議と分かるほろたんが、ひまりんの肩の上で解説を始める。
「あれも魔法少女です。
　得物……じゃなかったマジカルアイテムの『マジカル金属バット・ブラッディマリー』にマジカル・ウォークライをかけて、物理属性を魔法属性を変化させたマジカルな超攻撃を——」
「ちょちょちょちょっと待ってマキリくん！」
「ほろたん」
「ほろたんッ！　魔法少女って、あの魔法少女だよ？　マジカルマジカル言ってるけど、金属バットだよ！？　そんな魔法少女って言うより魔王みたいな武器……ま、待って、深夜アニメで見たことあった！！」
「ならOK」
　ほろたんは静かに頷いている。向こうでは巴がブラッティマリーを天高く掲げたところだった。

「勝利と栄光を！」

　鬨の声に呼応し、雲間から光が射した瞬間、巴が凄まじい勢いでブラッティマリーを振り下ろす。
　ガインッ！　と工事現場から聞こえるような音がして、テーブルが知能を持って敵と化したテーブルマジューンの脚部が大きく凹んだ。しかしブラッティマリーはその一発だけでは終わらせない。
　何度もそのガインッゴンッガインッと重みのある攻撃を繰り返し、同じ場所に食らわせていく。
　——二度とあたしに歯向かう気を起こさせない。そんな意志を感じさせる猛追だ。敵ならば当然、そして同じ魔法少女のひまりんの視点からも震え上がる強烈な絵だった。
「あ、あ、あの魔法少女と協力するの？」
「彼女は孤高の魔法少女だから、一緒に戦うのはきっと難しいです」とほろたんは言う。
「だよね」
　ちょっと安心したひまりんだった。
「とは言え実際人手が必要ですよこれ。
　俺、他に誰か仲間になりそうな魔法少女やスカウト出来そうな人材を探してきますから。……ひまりんはここでふんばるほろっ！」
　ほろたんは適当なマスコット口調でそう言うと、ひまりんの肩からひょいっと降りて、建物の方へ走って行ってしまった。一瞬「ここってあの子だけでいいよね」と思いかけたひまりんだが、事件に巻き込まれた人々を見ると胸が痛む。
「あの子も戦ってる」
　ひまりんは孤高の魔法少女の勇姿を見つめ、唇を噛み締めた。ついこの間、友人の窮地に戦う力を持たない自分に不甲斐なさを覚えたばかりじゃないか。それなのに自分は……？

「私も戦わなきゃ……！　あの、た、タキシードメガネ様——」
「きたよ語呂だけよくてクソ適当な陽毬さんクオリティ」
　サポート系のイケメンヒーローにしては、随分な口の悪さに何かを覚えて、ひまりんはタキシードの男のメガネに手を伸ばす。
「何？」と彼が自らレンズを上にずらすと、直接その目が見えた。そこでひまりんはようやく彼の正体が、親しい友人の水海道音春だと気づく。
「音春君！？　こんなところで何してるの？」
「今？　なんで分かんなかったのさ。……もしかしてコレ？」
　音春がメガネをかけ直すと、ひまりんのなかで彼の認識があやふやになった。なるほどこれもアニメやなんかの世界で見たことがある。『ザルな変装だけで間近で見ても誰だか分からなくなる現象』だ。
　その二人のやり取りを遠くから見ながら、ある男が得心していた。
「なるほど。あのメガネにそんな機能があるなら、きっと俺のこのマスクにも——」
　同じ効果が期待されるベネチアンマスクをしっかりかけ直して、男は煌びやかな装飾がされたステッキを振り戦場へ走る。

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