【４周年記念】異世界ばっひゅーん｜リアクション

【４周年記念】異世界ばっひゅーん

　目覚めた時、部屋は寒かった。真境名アリサは手近のセーターを引っ掴み、布団の中でもぞもぞと着た。上体を起こして不機嫌そうに上を見る。
　――エアコンを使えばよかったわ。
　自分に腹を立てても仕方がない。気分を切り替えて布団を抜け出し、素早く炬燵に潜り込んだ。スイッチを入れて最高の温度に設定した。
「ああ、早く」
　仰向けの姿で頻りに足を擦り合わせた。一分と経たずにアリサの表情が緩み、目が閉じそうになる。
　急に上体を起こす。卓上のリモコンを手にしてテレビを点けた。
「何か、あるよね」
　チャンネルを次々と変える。ボタンを押す指が止まった。アイドルグループが躍りながら歌っている。
　――顔は悪くないんだけど、スタイルはもう少し頑張って欲しいわ。踊りに切れもないし。あ、右端の子、ワンテンポずれた。
「ああ、イライラするわ！」
　チャンネルを適当に押す。春を思わせる草原が画面に広がる。聞き慣れない鳥の囀りが耳に心地よい。近くの小川のせせらぎが合わさる。
　――この、組み合わせは、反則よ……。
　瞼は閉じる寸前で堪えていた。頭は上下に揺れている。前に引っ張られるように背中が丸くなり、頬を卓上に押し付けた。

　浮遊感が全身を包む。目が一気に開かれた。
「あれ？　なんで空に浮いてんの？」
　それだけではなかった。自身の身体を目にして、一瞬、裸体という言葉が頭に浮かぶ。両目を擦ってよく見ると際どいところで踏み止まっていた。
　――黄色い一本の布地で出来てるみたいね。これ、ポロリとかもあるんじゃないの？
　試しに胸を左右に揺すってみる。細い布地は動きに合わせて付いてきた。上下の激しい動きにも耐えた。
　――普通の布じゃないみたいね。右足だけの網タイツにお洒落なネックレス。ブレスレットやアンクレットもあたし好み、ってことはやっぱり夢なのかもね。

「そうとわかれば思いっ切り楽しまないとね！」
　さらりと髪を掻き上げて艶然と微笑む。豊満な胸の下で腕を組み、その場で器用に宙を回る。海面を跳ねる人魚のようであった。
　アリサは身体をくねらせて空を渡る。
　結構な人数と出くわした。早速、蠱惑的な踊りを披露した。空中でゆっくりと回るように腰を振り、開脚の姿で空を舞う。合間に誘うような手付きで不敵に笑った。おおー、と野太い歓声が上がる。ポールダンスの会場のように熱気を帯びた。
　――ああ、気持ちいいわ。空があたしを包み込んでくれる。自由に動けるように導いてくれてるみたい。
　打って変わって凛とした表情になる。それに合わせて動作も劇的に変化した。
　片足で立つような格好で水平に回る。手や足の角度を微妙に変えて氷上のスピンを思わせた。
　人々から熱狂的な拍手が沸き起こる。指笛を鳴らす者もいた。
「今日はありがとう！　また、どこかの空で会えたらいいね！」
　観客の声援にアリサは手を振って答える。ドルフィンキックを駆使して空の高みへと上がっていく。
　――次はどこで踊ろうかしら。
　気ままに空を飛びながら次の舞台に思いを馳せた。