【４周年記念】異世界ばっひゅーん｜リアクション

【４周年記念】異世界ばっひゅーん

　宮祀智瑜は制服姿で校舎内を見て回る。開いているドアを見つけては遠慮がちに中を覗いてみた。その都度、落胆の溜息を吐いた。
　――義弘先生はどこにいるのでしょうか。職員室で聞いた話では見回りをされているはずなのですが。
　うろうろと歩いていた足がぴたりと止まる。踵を返して小走りとなった。
　智瑜は校舎の外に出た。目の前の第一グラウンドには生徒達が自主トレーニングに精を出す。
　――ここにはいませんね。
　講堂の方に早足で歩いて通り過ぎる。周囲に目を配りながら突き進む。体育館が斜向かいに見えてきた。
　智瑜は満面の笑顔となって走り出す。
「義弘先生！」
「宮祀か。学校に何の用だ」
　周辺の見回りをしていた桐島義弘が足を止めた。前につんのめるような姿で智瑜が立ち止まる。
「私も見回りに付き合います」
「どうしてだ？　宮祀は風紀委員ではない。その必要はないと思うが」
「では、義弘先生の破れた服を修繕します。ちゃんと裁縫道具も持ってきました」
　スカートのポケットからコンパクトな容器を取り出し、にっこりと微笑んだ。その表情のまま、義弘の背後に回ろうとした。
「宮祀、そうそうズボンが破けることはない」
「本当ですね。残念です」
「これで用事は終わったな。家に帰って学生の本分である勉強に励みなさい」
「背広の方は大丈夫でしょうか」
　袖やボタンの部分に目を近付ける。
「何もないと思うが」

　二人の足元が唐突に破けた。
「た、高いっ！」
　下を覗いた智瑜の声が裏返る。側には驚いた顔の義弘がいた。
「どういうことだ、これは」
「せ、先生、どうしよう。とんでもなく高いですよ！」
　智瑜は義弘の左腕を抱え込んだ。眼鏡の奥の目が瞬間的に下を向く。腕は柔らかい谷間に完全に挟まれていた。
「お、落ち着くんだ。少し離れて状況を考えてみよう」
「こんなところで離れたらバラバラになって落ちちゃいますよ～」
「し、しかしだな。このような状態は好ましくないと」
　あまり強くは出られない。教師には生徒を守る義務がある、と厳格な顔が語っていた。その反面、唇は微妙な居心地の悪さを訴える。
「本当にどうしたらいいのでしょう」
　胸に腕を挟んだ状態で身体を左右に揺する。義弘は突き放すことも出来ず、考えるように顎に手を持っていく。
「宮祀、いつの間に黄色いエプロンを付けたんだ？」
「エプロンなんて、本当ですね。どうしてでしょうか」
　胸に挟まれていた腕が解放された。智瑜は不思議そうに付けられたエプロンを眺めている。
「不思議なことがあるものだ。何故、エプロンなのか」
　義弘は殊更、エプロンを強調した。智瑜は恐怖心を忘れて自身の胸元を見詰めていた。
　そこに突然の横風を受ける。
「せ、先生、風です！」
「宮祀、冷静に、平常心を保つんだ」
　義弘の腕はまたしても谷間に挟まれた。
「やっぱり、離れちゃダメですね」
「この状態になっても何も変わらないが」
「変わりましたよ。義弘先生と一緒にいると、少し安心できます」
　心からの声である。智瑜の笑顔が義弘に語り掛けてきた。
「まあ、それならばいいのか？」
　返す言葉にも多少の本音が混じる。