【最初はみんな駆け出しだから】

　コンニャク・ショックはなんとか乗り越えて、ま　なはコンバット・スミス 01の脚を無限軌道モードへ変形させ、きゅらきゅらきゅらと突撃！
「わっ、避けろーカラス！」
「……っぅぁー！（そこだぁー！）」
　とっさに飛び退くカラスへ、うなりを上げる右腕のスコーピオンアームをかかげて、パイルバンカーを射出！
　飛び出す杭の強烈な一撃をがつんと受けて、カラスは吹っ飛びます。エフェクトがボディに開いた大きな風穴を演出し、ぴしぴしぱきんと回路がショートする様子まで再現しながら、カラスはどうにか地面へ着地、体勢を立て直します。
　とはいえダメージは甚大、もう後がありません！
「あれ……カラスが光ってる？」
　と。たっくんは気付きました。意外にちゃんと効果のあるコンニャク・アーマーに対抗するかのように、どうやらカラスにも、なにやら特殊な機能が備わっていたようなのです。
「わぁっ。きれいだね！」
　みとはゲコ丸と一緒に、ぱちぱちと拍手。
　カラスはぎゅいいいいんっとギアが回転する音を放ちながら、黒装束のボディに緑青（ろくしょう）色のラインを走らせ、美しく輝きはじめたのです。
「こんな機能があったんだ！　よぉし、これならっ！」
　内蔵ギアの働きで、カラスは動けば動くほどスピードアップ！
　両目を紅くきらめかせ、地を蹴り宙へと跳躍したカラスは、右腕に搭載されたブースターにぼわっと点火。落下と噴射の勢いを乗せて、強烈パンチ！
「……ぁぁー！（ああー！）」
　どっかーん！　コンバット・スミス 01は頭部に直撃を受け、大爆発！
　白熱の初戦は、辛くもたっくんが勝利を飾りました。
「ふうっ！　ありがとなー、良い勝負で楽しかった……」
「……ぉぅぃっぁぃ！」
「ん？」
　健闘したコンバット・スミス 01を抱き上げて、まなはきりりと眉を吊り上げ言いました。
「もう一回、だって！」
　みとが意味をくみ取って伝えてあげますと、まなはこくこくとうなずきます。まだまだ、ギアバトルの熱は冷めやらずといったところのようです。
　拓哉ももちろん笑顔を返して、
「それじゃ、もっかいやるか！　俺たちの戦いはこれからだー！」
「ぉぅ……！（うんっ！）」
　ふたたび元気に、対戦モードに突入するふたり。
　そんな彼らを眺めつつ、みとはまだ頭だけカエルなゲコ丸をつつんっとつっつき、
「ゲコ丸がちゃんとカエルさんになれるように、みとたちもがんばろうね♪」
　あとでもうちょっと、ガチャガチャをしてみようかな？　なんて思いながら、ふにゃっと笑いました。



「おっ！　これまた、個性的なカプセルギアだねぇ」
　まなや拓哉の対戦を見物していた善場さん。彼が不意に目を留めたのは、いろんなパーツを寄せ集めたような、無骨で雑多カプセルギアです。
「ふふっ、いーでしょ！　その名も、『ST93（スクラップトレジャー九三式）』！　私はガラクタ君って呼んでるけどね、名前長いし」
　鈴島 クミの愛機は確かに、なんとも個性的！　ところどころ装甲の中が剥き出しになっていたり、曲がっていたり塗装が剥げていたり、まさしくスクラップの山から生み出されたかのようです。
　それもそのはず。
「この子はねー、壊れちゃって捨てられてたのを私が拾って、ここまで直したんだよ！」
「それ、ネコババって言わないのかなぁ……」
　模型店の品ぞろえを覗きつつ、のほほ～んと言ったのは陸堂 源次。クミとは幼なじみの、同じ年でクラスまでも同じという仲良しなふたりです。
「ネコババじゃないよ！　そこはほら、さっすが未来の天才メカニック！　って褒めるところじゃない？」
「でもそのためにまた徹夜して、授業中に居眠りしてたじゃん」
「いやー、さすがの私も疲れちゃってねー」
　はっはっはと悪びれず、むしろ誇らしげに笑うクミに、マイペースな源次は肩をすくめました。
　善場さんは微笑ましげにそんなやりとりを眺めつつ、
「そこまで直してもらえたなら、その子も喜んでるんじゃないかな。それで、今日はその子のお披露目ギアバトルかい？　それとも、カスタマイズパーツを増やしに来たのかな？」
「そうそう。今日はね、ゲンジのカプセルギアを買いに来たのよ！」
　ぱしんと背中を叩いたクミはその気ですけれど、誘われてここへやってきた源次は、カプセルギアのことをほとんど知りません。楽しいよ！　ゲンジもやろうよ！　としきりにクミが言うもので、ちょっとだけ興味を持ち始めたところだったりします。
「えっと、ガチャガチャで買うんだっけ？」
「うん、カプセルギアコーナーはあそこだよ。良いのが出るといいね」
「ほら、行くよゲンジ！　早くしないと錆びちゃうよ！」
「わ、ちょっと待ってくれよー。あいかわらず、クミはせっかちだなぁ……」
　善場さんにぺこりとおじぎをしてから、源次はクミに手を引っぱられながら、ガチャガチャコーナーへ歩いて行きました。
　さてさて、彼が出会うのは一体、どんなカプセルギアなのでしょうか？



　そんなわけで、何度かガチャガチャガチャンっとやってみた後に。
「クックックッ……手に入れたようだな、自分のカプセルギアをッ！！　というわけでさっそく、チュートリアルバトルだよ！」
「俺、初めてなんだけど……」
「授業料はコーラグミ一個でいいよ、格安！」
　いきなりギアバトル！　A.I.C.O.での各種登録が済んだら最低限の操作だけ覚えて、あとはスパルタ実戦形式です。
　源次……ギアマスターネーム『ゲンジ』が動かすのは、空挺兵（パラシュート降下部隊）を模した、ミリタリーチックなカッコイイカプセルギア。まだ名前が決まらず、ひとまず『名無し』ではありますけれど、なんといいましょうか……こう、むせる佇まいです。ガチャガチャでいくつか機体は手に入れたものの、なんとなくこの形がお父さんの仕事着に似てるのだそうで、すっかり気に入ってしまったのでした。
　突然のバトルですけれど、ゲンジはいつものようにつぶやきます。
「ま、なんとかなるよ」
　脚についているローラーダッシュ機能で走り出すと、ぺもっとバーチャルパッドをタップ。右腕のチェインガンが火を噴き、ずがががが！　銃身に激しいマズルフラッシュが瞬いて、
「あっ……」
　銃弾は、あさっての方向に飛んでいきました。やる気はあっても初心者でして、操作はいささかおぼつかない様子。
「わっはっはー、まだまだだね！　いっくよー、ガラクタ君！」
　『ぐみ。』のST93はその名のとおりのスクラップ具合ですけれど、実はそれも計算のうち。というか、
「カスタマイズこそ、カプセルギアの醍醐味！　女のロマンッ！！　ほらほら、このパーツの剥き出し加減とかコーフンしない？」
「相変わらずだなぁ」
　だいぶシュミ的ではありました。
　とはいえ、もともと捨てられていたのは本当ですし、二度とそんな思いはさせたくない！　という強い思いもまた、ぐみ。にはあるのです。
　愛情込めてカスタムしたST93の武装は、こだわりの高周波振動式無銘刀一本のみ！　いかにもロボットテイストなちょっとぎこちない動きで、
「てーいっ！！」
　踏み込み一閃！　刃が袈裟斬りに、名無しの空挺兵を切り裂きます。
「うわっ！？　当たっちゃったよ」
「まずは一発、もらいっ！　ゲンジのカプセルギアはローラーダッシュがついてるから、近づいたり離れたりは得意なんじゃない？」
「うん？」
「相手を良く見て、間合いを調節するといいよー。それに合わせて武器も切り替えられたら完璧」
「うーん、なるほど。こうかな？」
　ギアマスターとしてはちょっぴり先輩なぐみ。からは、逐一ありがたいアドバイスをいただけまして。機転が利くゲンジの操縦は、見る間に上達していきました。
「この間合いはチェインガンで……よし、ここだ。ダッシュして、パイルバンカー！！」
「おおっ……！？　や、やるねーゲンジ、それでこそ私のライバルだよー！」
　気心知れた幼なじみ同士、まるで演武のような息の合った攻防が続きました。