【これが、ギアバトル！】

　旧市街に満ちる喧噪の中を歩きながら、赤羽 勇樹はため息ひとつ。
「なあ奈々美、俺たち受験生だぞ？　相変わらずの取材馬鹿はどうかと思うぞ。奈々美はただでさえ成績悪いんだし、勉強しろよ……」
「ふふふんっ！」
　ずずいと得意げに鍋島 奈々美が背中を反らすと、中学生にしては発育のよろしいお胸が少しばかり揺れて、勇樹は頬っぺたを赤くしながら目を反らしました。
「うち、知っとるんやでー？　勇気がメカだのロボだの好きなんは。カッコつけてガマンしなくてもいいんやで？　ほれほれ～」
「ふっ、見くびるなよ。確かに世の男子にはロボ好きが多いだろうが、俺は『正義』を実行する男だぞ？　戦隊モノは好きだが、ロボだのなんだのは管轄外だ。そこんとこのジャンルについては後でじっくりと話し合う必要がありそ、ちょ、やめ、つっつかないで……！」
　勇樹の脇腹をツンツンしながらも、奈々美は寝子中新聞部員としての決意を新たにします。
　ぐぐっ！　拳を握り込みまして、
「『カプセルギア』！！　小中学生に大人気らしいやん。このブームに乗り遅れるのはアカン、報道人の名が廃るッ！　っちゅーわけで～、ほれ、見てみい勇樹！」
「まったく、なんだってんだ……」
　気乗りしない様子の勇気へ、奈々美は善場模型店の店先を指し示しました。そこでは、たくさんの子どもたちが輪を作り、なにかを見物しているようです。
　律儀に正義を遂行する男・勇樹は、ちょっとごめん、悪いな、と控えめに輪の中へ踏み込み、そして目にしました。
「……こ……これが、カプセルギア？」



　偶然店先をとおりがかっただけの樹でしたけれど、気づくと目の前の対戦にのめり込んでいる自分がいます。
「確かに、みんなが熱くなるのも分かるかな……っと、あぶない！　避けて、『猟犬』っ！！」
　スマホの画面に表示されたバーチャルパッドのボタンをタップすると、しゅばっ！　黒装束の忍者型ロボットが地面を蹴って、砂ぼこりを巻き上げながら大ジャンプ！　飛んできた砲弾が地面にぶつかって、真っ赤な爆炎がぼわっと上がると、ギャラリーの子どもたちからはわあっと歓声が上がります。びっくりしてしまったのか、なかにはちょっぴり悲鳴っぽい声もありました。
　全長１０センチ程度の、ほんの小さなロボットです。それが歩いたり走ったり、武器で攻撃したり避けたり防いだり、そのたびに光や音のド派手なエフェクトが、次々に空間へ実体化していくのです！
　どういう仕組みなのかは、正直言ってサッパリ。けれど樹も、寝子島で巻き起こる不思議なあれこれにはいくつも遭遇して、慣れっこではありました。
「初めてだっていうのに、上手いじゃないか『狩人』さん！」
　対戦相手は、善場模型店の店主のおじさん、善場さん。胸を借りるつもりで対戦を申し込んでみると、彼はこころよく受けてくれました。
　ちなみに『狩人』とは、樹の『ギアマスターネーム』のこと。カプセルギアで遊ぶ人のことを、『ギアマスター』と呼ぶのです。
「よーし、おじさんもちょっと本気出しちゃおうかな～？　行くぞ～、『ZEN-4C86』！」
　ミリタリーチックな４脚カプセルギアが、背中のミサイルランチャーから、煙を引いて飛ぶ無数のマイクロミサイルを連射！
「なんのっ！」
　狩人の指が翻り、愛機となった猟犬が黒い足袋を履いた足をずしんと踏みしめると、ずごごごご……地面が盛り上がって壁になり、ミサイルの直撃を防ぎました。これもホログラムの演出……のはずですけれど、まるで本物にしか見えません。
　猟犬は狩人の操縦に従って、手裏剣型爆弾を連射して相手を足止めしつつ、どかどか飛んでくる砲弾やミサイルを華麗に回避。攻撃の隙をうかがいます。
「すごい弾幕だけど、懐に飛び込まなきゃ……！」
　黒装束のボディパーツに搭載された高性能レーダーで敵の位置を確認しつつ、いかにも忍者らしい走りでジグザグに駆け抜けると、
「……よーし、ここだ！」
　見い出したのは、降りそそぐミサイルと砲弾の抜け穴。
　猟犬の左腕の手のひらからしゅぱんっと伸びた蜘蛛の糸が、４脚の足の一本に絡み付きます。伸縮性に優れた糸が縮むのに身を任せれば、高速で移動する手段ともなるのです。
　どぎゅんっ！　猟犬は黒い影の尾を引きながら、目にも止まらぬ速さで急接近！
「うわ、まずいまずい！？」
　善場さんこと『ヨッさん』は慌てて愛機『ZEN-4C86』を遠ざけようとしますけれど、ただでさえ重量級で動きが鈍い上、糸が絡み付いて思うように動けません。
「もらったぁ！！」
　猟犬の黒覆面の口元がほどけて、露出した口から噴出されるのは、可燃性ガス。ZEN-4486を包み込んだところへ、トドメの手裏剣を発射！
　ちゅどどどどんっ！！　５つの手裏剣が次々に炸裂し、ガスに引火して大爆発！！　ZEN-4486はころんっと地面に転がって、
「やったね！」
　樹と猟犬は初戦にして、初勝利を飾ったのでした。おみごと！



「す、すっげぇーーー！！　カプセルギア、すっげぇなー！！」
「ええ、大迫力です！」
　観戦していた影太郎や逢莉は、大興奮。ギャラリーの子どもたちからも、ナイスファイトには惜しみない拍手が贈られました。
　初めて実際にカプセルギアを目にした奈々美も、ほおーっと感心することしきりで、
「これ、頭とか腕、足、胴体でバラして、別のパーツに交換できるんやね。なるほど、よーできとるなぁ！　これは流行るのも分かる……勇樹？」
「へえ……なんだ。ちょっと、あれだ。けっこう面白そうじゃないか……と言うか、みんな楽しそうだな」
　子どもの頃からあまりオモチャの類には興味を示さなかった幼なじみが、ちょっぴりそわそわとして、浮かれがちのようです。思わず奈々美は、ニャハハ！　と笑みを浮かべました。